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婚約は一旦保留

「か、花蓮なのか……?」




 僕のことを『せいちゃん』と呼ぶのはこの世でただ一人しか存在しない。


 金沢花蓮だ。


 


 そう呼ばれたのだから、目の前にいるこのギャルは花蓮だとおそらく脳は認識している。


 ただ魂というか……僕という人間が疑心暗鬼に陥っているためか改めて確認した。




「そうだよ! 久しぶり!」


「あ、ああ……」




 間違いない……花蓮なのだ。このギャルは。




 そして花蓮は呆然と立ち尽くす僕の手を取り、リビングへと向かった。




 リビングの四人用のテーブル周りには妹である詩音と母さんが座っていた。




「せいちゃんただいま帰宅でぇす」


「お帰り」


「お兄ちゃんお帰りぃ」


「お、おう……」




 そこから数分の間、僕ではなく僕の家族と花蓮は和気あいあいと話を続けていた。




 僕は何も話さなかったが、三人の話を聞いていて分かったことがある。


 


 まず花蓮は先ほどお隣の家に引っ越してきたということ。これは何となくというか、当然だろうなと思う。




 問題があるとすれば次からだ。


 花蓮は紛れもなく同級生である。だから当然高校に通うはず……それ自体はどうってことはない。しかし問題はその高校というのが僕と同じということだ。




 転校してくるのは明日かららしいが、仮に僕のクラスに転校してきたとしたら……白銀さんとの貴重な淡い時間が今よりも減ってしまうに違いない。




 これをあたかもまだ自分が幼馴染に好意を抱かれていると思い込んでる言い方だなと思う者もいるだろう。




 そう思える根拠が問題二つ目。


 小学生の時に僕が花蓮にプロポーズした日の晩、家族と夕食の際に僕はその事を赤裸々に話していた。


 それをどうやら妹と母さんは覚えていたらしく、僕が先ほど帰宅する前に花蓮とその事について語り合っていたらしい。それに加えて花蓮は僕のプロポーズをいまだに真剣に受け取っているとのことだ。




「折角なんだし二人だけで話す時間も花蓮ちゃん欲しいんじゃない?」


「そうね。星冬の部屋にでもいったら?」




 言い出しっぺは詩音でそれに母さんが賛同する。




「そうだね! 行こ! せいちゃん」


「はいはい……」




 こんな状況下で僕に拒否権が無いことは明白だ。


 仕方なく受け入れリビングを後にし、花蓮と二人で階段を上る。




「ひ、一つだけ言っておきたいことがある」


「なに?」




 自室の扉の前で、僕は花蓮にある確認を取るべく一時停止する。




「この先の光景を見ても引いたりしないでほし……」


「そんなことどうだっていいよ!」




 僕の忠告そっちのけで花蓮はドアノブへと手を伸ばし勢いよく扉を開いた。




「えっ……!?」




 壁一面には好きなアニメのタペストリーやらポスター。棚には綺麗に陳列されたフィギュアたち。その他にもラノベの本棚などなど。


 いかにもオタクといったかんじの光景が今、花蓮の視界には映っている。




「今の僕はこんなかんじだ。流石に引いただろ」




 引いたに違いない……というよりも引いててくれと予想から願望へと変化したことを含んでいる言い方に本人は気づいていないだろう。


 


「すごぉい! せいちゃんオタクになったんだね! 可愛い幼馴染がいなくなって寂しかったから二次元に逃げちゃったとか? 理由はともあれ将来の旦那さんの趣味を引いたりなんてしないよ!」




「そ、そうか。ていうか逃げたわけではないからな」




 唯一の望みが消えたといっても過言ではないだろう。


 これで間接的に僕に失望させる手段は無くなったに違いない。




「ツンデレだなぁ、せいちゃんは。まあはやく入りなよ!」


「はぁ……」




 溜息を漏らしつつ花蓮に続いて自分の部屋に入り、机前のゲーミングチェアへと腰を下ろす。




「それにしても凄いなぁ」




 花蓮はいまだに室内をうろうろしつつ、僕のオタク度に感銘を受けているような表情をしていた。




「ちょっと聞きたいことがあるのだが……」


「何?」




 立たせたまま話をするのは気が引けるので花蓮を自分のベッドに座らせる。




「それで? 聞きたい事とは何でしょう?」


「ま、まず。何故そんなギャルみたいな姿に変わったんだ? 花蓮は茶髪でそこまで長くない髪だったと記憶しているのだが?」


「え? せいちゃん私に言ったこと覚えてないの?」


「ぼ、僕? すまないがないな」




 どうやらこの変化のおおもとは僕にあるらしい。


 でも全く心当たりがない。




「昔一緒に下校中せいちゃん言ったじゃん。『僕金髪で長い髪の女の子が好きなんだよね』って」




 そう言われて思い出した。


 確か当時に放送されていた実写ドラマを家族と一緒に見ていたとき、金髪で長髪のお姉さんが出てきて、次の日にそういった髪型が好きになったことを花蓮に話したのだった。


 僕にとってはさりげない一言だったが、花蓮にとっては超が付くほど重要な情報だったのかもしれない。




「だから高校に上がるタイミングでこうしたんだ! でも金髪だけじゃ物足りないと思って、金髪といえばギャルかなと思ってこうなっちゃった」




 耳にあるピアスをいじりつつ花蓮は笑いながら僕の質問に答えた。




「な、なるほどな」


「どう? 可愛い?」




『可愛いよね?』といった眼差しで聞いてきた。




「か、可愛いと思う……」




 別に嘘ではない。単純に可愛いと思ったからそう言った。


 でも、同時に僕の脳裏をよぎるのは銀色で艶のある長髪だった。




「そうかぁ。よかったぁ」




 僕の感想に安堵したように花蓮はベッドに身を倒した。




「もう一つ聞きたいことがあるんだが……」


「何?」




 花蓮は倒していた体を再び起こす。




「そ、その単刀直入に言う。花蓮はまだあの時のプロポーズを本気で捉えて、僕と結婚する気でいるのか?」




 リビングでの会話からはそう捉えられる。


 部屋に入ったときも旦那とか言っていた。


 俺のためにと容姿も変えている。




 しかし冗談で言った可能性もゼロではないはず……。


 


 だから改めて静まり返ったこの環境で、一抹の望みにかけて聞いてみた。


 


「もちろんだよ!」


「冗談じゃなく?」


「本気!」




 意気揚々と花蓮は僕の問いに答えた。


 駄目だ。現在の僕の恋心は白銀さんに対してだけだと思っていたが、揺らぎ始めそうになっている。


 


「そ、そっか……」


「あ、あれ? なんかテンション低くない? せいちゃんは私をお嫁さんにしてくれるんだよね?」




 自分の雰囲気が明るくないことは分かっている。


 せめて小学六年生……いや、中学二年生くらいまでにこうして再開していたなら僕も二つ返事で了承してたかもしれない。




 遅いよ……。




 僕は今一人の女子に恋している……白銀さんだ。


 向こうはどう思っているか分からないけど、いつか必ずこの思いを伝えたい。




 それで駄目なら花蓮……とかそんなことしたらよく二次元とかにいるただのクズになってしまう。




 どうしたらいいのだ!?




「わ、悪いんだけど……あの婚約、保留にしてもらえたりするかな……?」




 申し訳ないと思いつつ、僕はそう言った。




「え……?」




 言うまでもなく、花蓮の顔は今にも泣きだしそうな表情へと変わっていた。




「せ、せいちゃんが言ったこと……嘘だったってこと?」


「い、いやあの時は本気だったけど……距離が開いて時間が経ちすぎちゃったみたいな……無理かな?」


「私たくさんの男子に告白されてきた。でもいつかせいちゃんと再会できたらと思って誰とも付き合わなかったんだよ?」


「ご、ごめん……」


「!? ほ、他に好きな子でも出来たの?」


「……」




 的を射る質問に返す言葉に詰まってしまう。




「わ、わかったよ」




 自ら言っておいてなんだが、これは予想していなかった展開だった。




「そ、そうか。じゃあ一旦保留にしよう」


「うん……まあ仕方がないよね。事実私たちは何年も連絡すらとってなかったしね……うん」




 自分を納得させているようだった。




「じゃ、じゃあ明日からまたよろしくね! せいちゃん!」


「お、おう」




 先ほどまでと比べると若干テンションは落ち気味だったが、それでも精一杯の笑顔で花蓮はそう言い、俺の部屋から出て行った。




「あそこできっぱり断れる勇気が僕にあればな……」




 一人の部屋で、そう口にこぼした。


 でも、成長した花蓮も相変わらず可愛い。


 出る部分もしっかりと出ていたし……。




「くそっ! どうしたらいいんだぁ!」




 頭を掻きむしりながら言った。




 そしてブレザーのポケットからスマホを取り出し、SNSアプリLIMEを開く。




『緊急事態だ――』




 メッセージの送信先は簑島だ。

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