16.謁見
緊張!
シリア卿と面会して、三日後に九之池は、
ベルトゥル大公に拝謁することになった。
「謹んでお請けいたします。
と大公のお言葉を頂いたあとで、言いないさい。
あくまで儀礼的なものなので、
それで頭を下げて、終わりです。
よろしいですね、
そのくらいできますよね」
とシリア卿から言われて以来、
常に九之池は、落ち着かず、そわそわしていた。
ここ二日ほど、九之池がなんとか
自分を落ち着かせようと色々するも効果なく、
拝謁の時間まであとわずかとなった。
「九之池さん、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
心配そうなルージェナであった。
上の空の九之池は、頭を高速で上下させて、
何度も頷いていた。
こればかりは、ルージェナにどうすることもできず、
見守ることしかできなかった。
待合室がノックされ、九之池が呼ばれた。
九之池は真っ青な顔で呼びに来た者の後について、
謁見の場に向かった。
謁見の間のドアが開かれ、九之池の瞳に
玉座に座る人物とその両脇に居並ぶ武官、
文官の重臣であろう数十名が入った。
その瞬間、九之池の頭は真っ白になり、
漂うように大公の前に赴き、ひざまずいた。
九之池の雰囲気に重臣たちは驚いたが、
異世界からの召喚者のため、慣れぬ作法の
ためだろうとその姿を見守った。
大公が九之池に話しかけた。
「貴公が我が国の召喚者たる者だな、
このような形ではあるが、
貴公と話すのははじめてになる。
うわさは、」
「はっ謹んでお請けいたします」
突然、九之池が王の話を遮り、言った。
両脇の重臣たちがざわついた。大公の話を
遮るとは、なんと礼儀知らずよと。
「よい、世界が違えば、礼儀作法も違う。
慣れるまで時間が必要だろう。
それより、此度の遠征の件、楽しみにしている。
気を付けて行ってくるがよい」
と大公が話を締めた。
九之池の頭はくらくらしており、全く大公の話が
頭に入らず、脂汗で服は目に見えるくらいに濡れていた。
しばしの沈黙の後、九之池はとにかく言上したはず、
退室しなければと、ふらふらと無言で立ち上がった。
これが不審な行動に映ったのだろう、
武官の何人かが九之池を取り押さるために
猛然とぶつかってきた。
九之池は、床に転がり、押さえつけられた。
一人の武官が、くっこの臭いは、毒か?
と体臭と汗の入り混じった独特の臭気を
何かの毒と勘違いした。
転がされた九之池にシリア卿が近づき、
「これは、汗ですよ。大方、ベルトゥル大公の
大気に触れて、緊張極まったのでしょう。
大公、気を鎮めてください」
と若干、芝居かかって言った。
「うむ、そうかそうか。
我が国、初の召喚者の正式な謁見で
あったがゆえにどうも抑えきれなかったようだな。
よい、許す。その者を介抱せよ」
と満足げに語り、謁見の間を後にした。
サンドリーヌ卿は、シリア卿に近づき、
侮蔑するように九之池を一瞥した。
「とんでもない拝謁になったな、前代未聞だよ
しかし、まあ、これで、しばらくは厄介払いできますな。
とんだ金食い虫になりましたな、この召喚者は」
「さあ、どうでしょうな。
我が国初ということで
大公の期待も大きいでしょうから、
どうしたものでしょうね」
と思案気のシリア卿であった。
「何かしらの功績をあげさせて、
その後、適当な罪状で処分が妥当かな。
今回のキリア王朝の訪問で
適当に功績をでっちあげて、
大公の面目を保って、処分だな」
とサンドリーヌ卿が続けた。
「うーむ、まあ、そのあたりはなんとも」
シリア卿は言質を取られるのを避けて、
会話を打ち切った。
そんな会話がされているなか、九之池は、
謁見の間から控室に運ばれていた。
そして、悪夢にうなされていた。
無理でした。
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