6.脅迫
チンピラ九之池!
「うっううっ」
うめき声をあげて、九之池が部屋に
連れてきた女性の意識が戻った。
少し離れた床に座っていた
九之池が声をかけた。
「大丈夫でしょうか?」
「えっ?なんで床に座ってるの。
あれっ?えっ?」
襲われると思っていた男が床に座って、
自分がベッドで横になっている。
そして、囚人として、死が確定していたのに
生きている。
よく状況がわからず、混乱していた。
「九之池といいます。
あなたのお陰で何というか
失っていた感情のようなものが
取り戻せた気がします。
ありがとうございます」
と九之池はもじもじと答えた。
「はっはあ。
とりあえず、ルージェナです。
姓は罪を着せられた時に
取り上げられました」
九之池の態度に毒気を
抜かれたのか、ルージェナは、答えた。
そして、ルージェナは続けて、答えた。
「助けてくれて、ありがとうございました。
あそこの闘技場で死刑が執行されるはずだったけど、
本当にありがとう」
そう言って、ぺこりとルージェナは頭を下げた。
「あーあー、助かったのに少し死ぬのが
延びただけなのかな。
まあ、落ち着いたし、最後になるだろうから、
おっさん、する?」
と笑いながら、ルージェナは、九之池を誘った。
「おっさん!違う、違う、九之池将浩です。
断じて、おっさんではない」
九之池はなぜか力説した。
「いやいや、おっさんでしょ。
少し鍛えたほうがいいよ。
典型的な中年だよ」
と言って、ルージェナは、
ケラケラと笑っていた。
九之池はルージェナに何の罪を
犯したのか問うた。
ルージェナ自身は何も罪を犯していないが、
どうやら、叔父の反逆罪に巻き込まれたようだった。
そして、親族が全て、死刑が逐次、
様々な形で執行されているようだった。
「ふう、九之池さんと呼びなさい。
それと、ルージェナさんは、まだ、若い。
なんの罪を犯してもないような気が。
何とかしますので、諦めないでくださいね、
生きることを」
と柄にもなく、九之池は言った。
ルージェナが上目遣いに
九之池を見つめて、
「ありがとう、九之池さん」
と言った。
九之池はその視線を受け止めることが
できずにおどおどしながら、視線を逸らした。
翌朝、執事のエドゥアールが九之池の部屋を訪れた。
当然、惨劇の確認のためだった。
ドアを無造作にエドゥアールが開けると、
九ノ池が床に転がっていた。
エドゥアールは九之池が殺害されたと思ったが、
九ノ池が腹を震わせながら、いびきをかいていたので、
その考えが一瞬で消えた。
そして、ベッドに寝ている女の囚人を見ると、
おもむろに九ノ池を蹴り上げた。
「ぶびっ」
奇声を発して、呻く九之池。
そして、その声でルージェナも目が覚めた。
「これはどういうことだ?
なぜ、これが生きている?」
とエドゥアールが言った。
「ルーたんを昨晩、殺すとは言ってないよ。
いつでもいいんでしょ。
なら、傍に置いて、いつでも殺せるように
しておくことにした。
ぐふふっその方がいつでも楽しめるからね。
それとも執事さんが替りにする?
それでもいいけど」
と言って、下種な笑い声をあげた。
「きっ貴様、調子に」
と言うエドゥアールの言葉を遮り、
九之池が冷然と言い放った。
「エドゥアールさん、先ほど蹴っ飛ばした件は、
不問にしますよ。
まあ、今、ここでこの娘を殺すことを強要するなら、
鬼の力をここで開放しましょう。
そしたら、恐らくあなたを
めちゃくちゃにしちゃいますよ」
九之池は、エドゥアールが敬語を使わずに
話していることに今、始めて気づいたが、
そのことは気にしなかった。
自分が敬語を使われるような人物で
ないことは弁えていた。
「ぐっ、シリア卿のご判断を仰がねば、
それは回答できかねる。
その娘は、死刑が確定しているからな」
エドゥアールは一度だけ見た九之池の異能を
覚えていたため、高圧的な態度に
出ることができなくなった。
九ノ池が意識を失い、皮膚が赤銅色に変わり、
囚人を素手でねじ切ったあの光景を思い出していた。
「まあ、ここでゆっくりと待たせて貰いますよ。
あっもちろん、ルーたんの食事と
まともな服を支給してね」
「わかった、それはなんとかする。
だから、大人しくしておいてくれ。
ここでの訓練は、ひとまず完了だ。
シリア卿の回答を頂いて、邸宅に戻る」
「はいはい」
と適当な返事をして、九之池は答えた。
「ルーたんっていったい?」
ルージェナはその呼称の意味するところに
悩んでいた。
おっおう!九之池さんもやるときはやるのう




