3.寝起き
だるー
シリア卿は、九之池をアンカシオン教の
教会に運び込んだ。
そして、然るべき約定の縛りを九之池にかけた。
九之池の意識がはっきりすると、
見たことのない世界にいる驚きより、
心の底を除かれた怒りが彼を支配した。
「あなたがたは一体、何のつもりで、、、」
と彼が叫んだ瞬間、身体中が束縛されるような
感覚に陥り、呼吸が困難になった。
「流石は、アンカシオン教、司祭の縛り。
召喚者への効果は絶大ですな」
と満足そうに呪いの言葉を唱えたシリア卿は言った。
「我らが教義は、あくまでも召喚者様と
共にあることです。
あまりな扱いでしたら、この祈りは解きます」
とにこやかに司祭は答えた。
シリア卿は、腹の中で、貴様の場合、
召喚者でなく金だろうと罵りつつ、
九之池を伴い、邸宅に戻った。
九之池はシリア卿の邸宅を見て、唖然とした。
ファンタジーで見るような貴族の邸宅。
そして、あてがわれた部屋も自分の住む
ワンルームの部屋の3倍はあろうかという
広さであった。
部屋に置いてあるアルコール類らしきものと
水を飲むと、眠気を誘われ、やわらかいベッドに
沈み、熟睡した。
九之池は、日本という国の寒村に生まれた。
まわりの村の住人はほとんど遠縁にあたり、
苗字も一之池、二之池、三之池、四之池、
五之池、六之池、七之池、八之池、九之池が
主だった。
古き時代にこの地にある9つの池より
現れた鬼と呼ばれる者たちと契りを
交わしたと言い伝えがあった。
それ以降、稀に超常たる力を
もって生まれる人間がいた。
多くの場合、若干、人より優れている程度であった。
九之池将浩の場合、血が非常に濃く現出してしまい、
村の神社で発現しないよう封印された。
今ではこの血は忌避されており
外部からの血を受け入れることで
薄まると考えられていた。
そのため、若者が外へ出て、配偶者を
見つけることを推奨していた。
九之池将浩は、18歳から村を出て、
東京の大学に通い、卒業後、派遣業務で
生計を立てながら、44歳となっていた。
無論、配偶者をみつけることはできなかった。
翌朝、九ノ池が起きると、部屋に
メイドらしき女性たちが朝食を準備した。
受けたこともないサービスのせいか
快適な反面、どうも緊張してしまい、
あまり味がわからなかった九ノ池であった。
朝食後、シリア卿の執務室で
九ノ池は緊張の面持ちで、シリア卿は
にやりとした表情で面会した。
九之池は思った。
嫌味のないイケメン野郎は敵。
九之池さん、、、どうなることやら




