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45.後始末編

稲生さんの物語、終わりを迎えます。

その結末は!

「リン、そろそろ、町に戻ろう。

暗くなりますよ」

リンが軽く頷くと、稲生は、リンの手を取り、

獣討伐の戦場跡地より町に戻った。


討伐より3年の歳月が過ぎていた。


古戦場跡には、比較的新しい石碑が建立されていた。

石碑には、記する日、王朝歴187年・火の周、

そして、討伐で亡くなった人たちの名前が描かれていた。

二人に馴染みのある名前、ノルド、ドルグの名もあった。

そして、

「10年以上に渡って、人々を恐怖に陥れた獣を

討伐せし、勇者たち、ここに眠る」

と結ばれていた。


 獣の討伐中、町へ襲来した魔物や魔獣は、

残った兵士により撃退された。

この戦いで、ドリアムは戦死したのか

行方不明となっていた。

町に戻ったはずのノーブルにもまた、

町で改めて会うことはなかった。

町は戦場の爪痕をいたるところに残していた。

レンのいた娼館も魔獣に蹂躙されており、

その凄惨な痕跡が残っていた。

何故かノルドとメリアムの店の周辺は、

ほとんど無傷であった。


そのことを稲生が問うと、メリアムは、

「魔物や魔獣の嫌う香薬をふんだんに

撒いておいたからな。

稲生、全てを助けることは絶対にできぬ。

助けには、必ず選択を迫られる、

そのことを忘れるなよ。

いずれ力を持ち、権力を手にしたときに

全てを助けられるなどと、思い上がるなよ」

と真剣な眼差しで答えた。

「はい、肝に銘じておきます。

まあ、偉くなれることはないかと」

と最後の方は若干、茶化して、稲生は答えた。


 討伐から、2日後、エイヤとワイルドが

この町での事務処理をあらかた終えると、

討伐の報告に王都へ向かうことになった。

稲生とメープルは、馬に乗ることができず、

車体懸架装置付きの馬車での移動となった。

メリアムがこれは老公のアイディアを

基に我々が開発したアイテムだと

誇らしげに説明をした。

どうやら路面からの振動を

低減させるものようだった。

誰もが仲間の死を整理できずにいたが、

時は刻々と過ぎていった。

おそらく、止まることのない時の経過が

自然に仲間の死を受け入れさせるのだろう。


 王都へ到着後、キリア王朝の

現皇帝への謁見と報告、そして祝勝会。

それから褒賞と褒章の授与。

それらが一通り済み、2週間ほど様々なパーティへの

招待を処理して、やっと稲生の生活は落ち着き始めた。


 メープルは、生き残った者たちと一度、

バルザース帝国に一旦、戻ることにしたようだ。

「稲生様、一度、戻りますが、

この地へ必ず戻ってまいります。

どこにいらっしゃるか分かるように

しておいて頂けないでしょうか?」


「もしどこかを放浪しているときは、

行先をワイルドさんに伝えておきますので。

あまりご無理はされないように」

と稲生が伝えると、「はいっ」と返事をして、

稲生に抱き着き、軽く頬へキスをした。


後方からの強烈な圧力を感じるが、

軽くメープルを抱きしめて、

「そろそろ、後方が、、、恐ろしいのですが」

と伝えた。

メープルは、自ら稲生より離れ、

リンへ戦線布告をした。

「リン、絶対に譲りませんから」


「ふん、なんのことかわかりかねますが、

私も譲るつもりは更々ありませんので」


ばちばちとお互いに敵意を表すも左手で

握手を交わした後にバルザース帝国に出発した。


その二日後、メリアムが旅立ちの途についた。

「老公の技能集団の裏切り者を探し出して、処罰する。

稲生、すまぬが独りで手に負えぬ時は、力を貸してくれ」

メリアムがそう言って頭を下げた。


「了解しました。この世界に留まっている限り、

全力をもって、メリアムさんのお力になります」

と稲生が答えた。


「例え、それが人を殺すことになっても

同じことが言えるか?」

メリアムが冷徹な表情で問うた。


「・・・」

稲生は、それに対する答えがでなかった。


「まあ、よい。老公と同じように悩めよ。

この世界に召喚者として、身を置く限り、

避けて通れぬ命題だ。

では、しばしの別れだ。

リンをよろしくな」

リンがメリアムに抱きついて中々、離れなかった。

しばらくして、リンが離れると颯爽と旅路に

メリアムはついた。


「リン、何か伝えることはなかったのですか?」

と稲生はリンに話しかけた。

「ん?大丈夫、もう、十分に話したから」


稲生とリンは、王朝からの通達で召喚者の

効率の良い召喚方法の模索を研究として

行うことになった。

帰還の方便として、謁見の際に王へ伝えたことが

認められた形となった。

本来の目的は、稲生の元の世界への

帰還の方法を探すことであった。

それより3年の歳月が過ぎるが、中々、

有効な方法は見つからなかった。


気晴らしのためとノルドやドルグの

お墓参りを兼ねて、ノルドのお店へ向かった二人。


地元民へ清掃は頼んでいるため、

軽い掃除で十分に宿泊出来る状態になった。


「さて、ノル爺やドルグに近況も伝えたし、

明日はどうする、稲生?」


「そうですね、良いところがありますので、

私と一緒に来て頂けませんか?」

と稲生が伝え、二人は就寝についた。


翌日、目的地に到着すると、

「稲生、ここは!懐かしいな。

よく覚えていたな」


「ここははじめてのデートの場所ですよ。

忘れる訳ありませんよ」

稲生が、微笑む。


「そっそうかそうだな。

メリアムさんのいたずらであのときは、

困ったものだ」

リンもまた、微笑み返す。


稲生は、その言葉を聞き、

ぐっとリンの腰に腕を回して、リンを抱きしめる。


「いっ稲生、こっこれは、メリアムさんのいたずらか」

リンは、拒否することなく受け入れている。


「三年前に伝えた言葉は、忘れてください。

本当に申し訳ありません」

稲生は出来る限り心を込めて伝えた。


「稲生、それは、、、そんな」

リンはどう答えていいか分からずにうろたえた。


稲生は、リンの両肩を掴み、自分の正面に

リンを向けて、伝えた


「あなたと関係を持つ前にきちっと伝えるべきでした。

リン、愛しています」

稲生は、真剣な面持ちでリンの答えを待った。


リンがほっとした表情でこちらに

軽く頭を下げて、稲生の胸に飛び込み

「バカー稲生のバカー」

と泣きじゃくりながら、しがみついていた。


稲生は、やさしく背中を撫でて、

「遅くなって、すみませんでした」


リンが泣き止み、稲生に抱きしめられながら、

不安そうに尋ねた。

「稲生、帰還の方法が見つかったら、どうするのだ?」

「戻ります。リンを連れて、戻ります。

一緒に来てください。まあ、その時は3人に

なっているかもしれませんが」

稲生は、笑いながら話した。


「バカ、早すぎる!早すぎるよ」

泣き笑いながら、リンが言った。


木漏れ日の陽光と川のせせらぎが二人を包み、

それは森が彼らの行く末を祝福しているようだった。


一章はこれで終わります。読んで頂いた方には、感謝を伝えたいです。ありがとうございました。

外伝を挟んで、二章が始まりますが、主人公は変ります。

イケメン貴公子登場なるか!こうご期待!


もし良ければ、ブックマークと評価をよろしくお願いします。

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