4.首が飛ぶ
ひょいっ、飛んでる
「グルルルルゥ」
獣は、標的がどこにいるのかわかっているのか、
悠然、歩いて街の中央に向かっている。
ザルツは、中央広場の真ん中に陣取り、
その周りを兵で囲むようにして、奴を迎え撃つこととした。
3m付近までお互いが近づいた瞬間、
ザルツはその場へ残像を残して、
獣の左側面へ突然、現れた。
最大最速の移動に身体が悲鳴をあげつつ、
剣一閃、獣の腹部あたりより大量の血が吹き上がった。
周りを囲む兵士や魔術師は、在りえない状況に
誰しもが動けなくなっていた。
ザルツの首がなかった。
剣を持ったままの体は、ふらつくように
二歩、三歩、動くと、その場へ倒れた。
ザルツと獣より吹き上がった血は、
混ざりあり、広場に血だまりを作っていた。
獣は、ザルツの体を踏みつけ、兵舎のほうを
一瞥すると咆哮し、ふらつきながら、
森に向かい歩き出した。
死ぬ、獣に攻撃したら、確実に死ぬ。
この場を支配するその思いに誰も動けなくなっていた。
兵舎の一室より、この状況を眺めていた召喚者は、
自分に向けられた殺意に震えが止まらない。
強そうな男が消えたと思った瞬間、頭が飛んでいた。
ザルツと獣の動きを何故か目で追えたが、
そのことが更に恐怖を感じさせた。
獣は多分、避けきれないと判断し、半身をずらし、
前足で近づいてきたザルツの頭部を
薙いだように見えた。
頭部のないまま、長年の鍛錬により
身体に刻まれた動作と不思議な形をした剣が
一振りされ、獣に傷を与えた。
召喚者は、気づかぬままに大量のあぶら汗と
失禁をしていた。
獣の姿が見えなくなり、魔獣や魔物がいなくなると、
紺のフードを着た女性が震える声で守備隊主任に言った。
「ザルツ様の遺体を棺にすぐに納めなさい。
それと、遺体が腐らぬように冷気をまとわせるように。
神象兵器は回収して、棺と一緒に置いておきなさい。
他は、被害の早期復旧に努めること」
兵や魔術師たちは、極度の緊張から解かれたせいか、
ふらつきながらも作業を始めた。
「とんでもない事になったな。
屑召喚貨者が生きて、国の1柱たるザルツ様が死ぬとは」
兵舎の召喚者の部屋を見つつ、
紺のフードを着た女性は、独り、そんな言葉を呟いた。
召喚者は、ベッドの上で汗と失禁で濡れた衣類を
なんとか脱ぎ、素っ裸でどうしたものか途方に暮れていた。
「困った。服がない。トランクスのようなものがあれば、いいけど」
あらら、速攻で退場!