36.強すぎる
稲生さんの実力!
「みなさん、おはようございます」
と翌朝、稲生があいさつをした。
各々挨拶を返し、試験の開始を待った。
どっしりと地に根を生やしているように立つノルド。
軽やかに今にも舞いそうな感じのメリアム。
祈りを捧げる乙女のようにその場に佇むメープル。
司祭を守るかのごとくその後ろに立つ神官戦士。
稲生は、全員を見渡し、まず、メープルに話しかける。
「メープルさん、調子は大丈夫でしょうか?
状態は把握しておきたいので、現状、
何故、問題なさそうなのか説明をお願いします」
「一つには、アンカシオン教の祝福です。
また、苦痛や身体能力を回復する薬草を服用しています。
飲んでから、約1日は効き目が続きます。
これは5日分を用意しています。
効果が尽きて、足でまといになるようでしたら、
捨て置いてください」
とメープルは隠さずに話し、
アルカシオン教の神官戦士ドルグを紹介した。
「では、私と模擬戦を行っていただきます。
ノルドさん、メリアムさん、メープルさん、
ドルグさんの順番でお願います。
討伐も明日に控えていますので、
お互いに怪我のないようにお願いします」
稲生は、全て分野におけるトップクラスの
己の身体能力にものを言わせて、
全員を倒すつもりであった。
まずは、ノルド。ドワーフ特有の
鈍重そうなその体躯に対して、
速さで圧倒し、ノルドの背後に回り込んで、
一撃を加えようとした。
その瞬間、稲生のみぞおちに一撃が加えられた。
「ぐえぇぇー」
言葉にならぬ声を発して、
苦しさのあまり、稲生はその場に倒れ込んだ。
メープルの祈りにより、何とか回復し、
立ち上がると、メリアムが「次はわたしですね」
と宣誓した。
始まると同時にメリアムは距離をとり、
弓を番えた。稲生は、先に準備していた石を
投擲した。石はメリアムの矢により砕かれた。
その直後、二の矢が稲生の股下を通過した。
稲生の股間は縮み上がり、大量のあぶら汗が全
身に吹き出していた。
そして、まとわりつく風により
身体の自由が奪われ、そこへメリアムが近づき、
頭を弓で軽く小突いた。
3人目のメープルは、メリアムによる
身体の自由が奪われたままの状態で開始がメープルより
宣言された。
「私は、直接戦闘では、お力になり得ませんので、
神の恩寵を稲生様に捧げます」
と言い、祈り始めた。
一分ほど、メープルが祈ると、
先ほど感じた恐怖が拭われ、全身に力が漲りはじめた。
風による拘束を強引に拭い、
これはどうしたものかなと思案していると、ドルグが
「では、はじめてください」
と言って、大楯を構えた。
漲る力をもって、ドルグを正面から
殴り飛ばそうと、大楯越しに殴りつけた。
微動だにせぬドルグ。
速さをもって、後方に回り込み、
腰のあたりを力任せに蹴り飛ばす。
ドルグの反応は、遅れ、腰の辺りに
蹴りを受けるが、その場から、微動だにせず。
何度も繰り返すが、効果なく、息を切らす稲生。
稲生は、大きく息を吸い、蹴りを放とうとした瞬間、
足元を振り払らわれ、転倒してしまった。
稲生は、地面に大の字になり、呼吸を整えながら、
どうしよう、この人たち、めっちゃ頼りになると思った。
にやにや笑いながら、メリアムが近づき、
耳元でささやいた。
「さてさて、稲生、この結果では、断れまいのう」
ううっ、リンになんて伝えよう。
やばっ、稲生さん、やばっ
リンにシバかれるやも




