33.攻略完了
稲生さん、プラン遂行中
「もう、7刻を随分と過ぎていますね」
町に到着し、稲生は、リンに話しかけた。
メリアムは、いつの間にか、お店の方に消えていった。
道中、メリアムと稲生が仲良さげで
あったためか、若干、ご機嫌斜めなリンであった。
「さてと、リン。
これから、ノルドさんの
お店に行きましょう」
「ふーん、ノル爺のお店に?まあ、いいけど」
更にリンは、ご機嫌が悪くなった。
稲生は、気にしない体で向かっていった。
稲生は、リンがブツブツと不満を呟き、
段々とその声が心なしか
大きくなっているような気がした。
不満が爆破しないことを祈るしか
できない稲生であった。
「おう、稲生、遅かったな。
お前の依頼は、いつも納期が短くて困るぞ」
店内に入るやいやな、ノルドが声をかけて、
稲生に品物を渡した。
「ノル爺、こんにちは。これは違うから!
稲生がこの町に不慣れで買い物に
付き合っているだけだから」
店内に入るなり、リンがあたふたしながら、
聞かれてもいないのに弁解している。
「ふん、わしは、あの邪悪なエルフと違って、
からかったりせんよ。
嬢ちゃんもいい年齢なんだ、
魔術研究ばかりでなく、デートの一つもせんとな」
ノルドは優しげな目でリンに話しかけた。
リンは顔を真っ赤にしながら、下をうつむきながら、
違う、絶対に違うと呪文のように繰り返していた。
稲生はそれを聞き、大きく、ため息をつき、
「リン、それは残念です。結構、傷つきますよ」
「いや、その、稲生、違うんだ。
そう言う訳ではないんのだ。
つまりあれだ。あれなんだよー」
リンは、よくわからぬ言い訳なのか
説明を必死にしている。
「とりあえず、わかりました、リン。
ただ、それでは納得できませんので、
瞳を閉じて顔を上げてください」
と稲生が言うと、リンは、顔を真っ赤にして、
顔を上げて、「察してくれよー」と一言。
稲生は、無言でゆっくりと両手を
彼女の鎖骨から首筋に回す。
「ううっ恥ずかしいよぉ」
と軽い悲鳴をあげるが、じっとしているリンに
稲生は、一歩、近づいた。
石像のように固まるリンは、
首元にひんやりとした感触を感じた。
「目を開けてください、リン」
と稲生に言われ、ゆっくりとリンは目を開けて、
首元を見る。
そこには、透き通るような青い石が
埋め込まれているネックレスがあった。
「えっこれは???」
リンは、どきどきしている心臓を
必死に落ち着かせようとしながら、尋ねた。
「リンへのプレゼントです。
メリアムさんから譲ってもらい、
ノルドさんに急遽、ネックレスに
加工してもらいました。
水の精霊の加護が封入されている魔晶石です」
石の周りの意匠だけでなく、鎖も非常に
凝った拵えであり、落ち着いたデザインに
仕上がっていた。
「ふん、むず痒いことしおって。
見ているこっちが恥ずかしくなるわい。
稲生、お前、女たらしだったのか?」
ノルドが笑いながら、言った。
「いえ、まあ、どんなにあがいても
死ぬかもしれないと思いますと、
一度は、やってみようと思いまして」
と弁明する稲生。
リンはいまだにぽーとして、
ネックレスに見入っている。
「稲生、おまえとは会って、間もないが、
その性格さゆえに力を貸したくなるな」
ノルドは、ぽっーとしているリンを
横目にそんなことを言った。
元の世界で稲生は、何となく仕事をし、
生活をし、弛緩した惰性の日々を過ごしていた。
しかし、稲生は、元の世界に戻りたいと
思うもこの世界で死を身近に感じ、
ここで命果てるかもしれなかった。
そのせいで、後悔してもいいから、
とにかくやれるだけのことをやろうとしていた。
稲生は、心込めた一言を伝えた。
「ありがとうございます」
リンは、王宮の着飾った女性が
つけるどのネックレスよりも美しいと思い、
このネックレスを貰ったことを
うれしく感じていた。
リンは、稲生、ノルド、ここにはいないメリアムに
向かって心込めた一言を伝えた。
「ありがとう」
「リン、では、夕食を取りに行きましょう」
とリンを誘った。
「はい、ノル爺も一緒にどうでしょうか?」
リンのその言葉を聞き、稲生は、流石に
この発言にええっと呻いた。
「ふん、そこまで雰囲気の読めぬ男ではないわ。
稲生、心配するな、行かぬぞ」
ノルドはからからと笑いながら、稲生に伝えた。
「お気遣いありがとうございます、ノルドさん。
後日、お礼も含めて、呑みに行きましょう。
では、リン、行きましょう」
稲生は自然にリンの手を取り、料理店に向かった。
その後、浮かれて酔いすぎたリンを
介抱するのに苦労する稲生であった。
ココニオレノイバショハナイ、稲生にとって、
かつての思いが少しずつだが、薄れゆく数日間であった。
大満足のリン!
攻略完了の巻




