23. 旅行1(稲生)
稲生さんのターン!
稲生は宿舎で2,3日どう行動するか思案していた。
兎に角、メリアムに直接、会う事を最優先とした。
ノルドより譲られた家に向かい、
メリアムの薬屋を漁って手がかりを掴むしかないと
稲生は決断した。
そうと決まれば、稲生の行動は早かった。
まずはハルバーンに向かうための準備を始めた。
ハルバーンまでは乗り合いの馬車が出ているため、
それを利用することにした。
乗り合い馬車には数人が出発を待っていた。
それなりに長い道中、できれば揉め事は避けたかった。
稲生は乗客に眼を向けて、揉めそうな人物が
いないことを確認した。
ただ一人だけローブを覆って顔を隠していた者がいた。
魔術師かなと思い、関りを避けるために
なるべく離れて座ることにした。
それは他の乗客も同じ思いのようで、
結局、話し合いの末に稲生が隣に座る羽目に
なってしまった。
道中半ばに差し掛かるが、晴天な上に魔物も
野盗の群れも現れず、快適な旅が続いた。
稲生は気が緩んでしまい、ついつい、
隣の魔術師に話しかけてしまった。
「いい天気ですね。どちらに向かう予定ですか?」
のほほんと話し掛ける稲生だった。
「大森林」
その声に誠一は揺れる荷車で狼狽えて立ち上がった。
何故ここに、一体何の目的で突然の事で思考が
追い付かなかった。
他の乗客から胡散臭い視線を送られて、
始めて稲生は落ち着きを取り戻した。
稲生は周囲に頭を下げて、座った。
「一体、どういうつもりですか、リン。
子供たちはどうしたんですか?」
フードの奥から二つの目が光ったように
稲生は感じた。
「問題ないわ」
「いやいやいや、問題ありですから、
次の駅で戻りましょう」
「稲生も一緒に戻るの?」
リンの声が少し心細く響いたように稲生は感じた。
「いや分かっているでしょう。
メリアムさんに会わないと。
アレについてもっと知らないと私にも
九之池さんにも将来はないですから」
「あの気持ち悪いデブの事は忘れて。
それで多分、あのデブからのあなたへの
害が及ぶことは無い筈よ。
ねっ稲生、一緒に戻ろう。
それなら私も大森林のあの村にはいかない」
フードを外して稲生を上目使いに見つめるリンだった。
周囲からため息と嫉妬の目が稲生に集中した。
周りの男共やっかみが十分に稲生には理解できた。
稲生は少し痩せているリンに見つめられてドキリとしていた。
稲生はリンの思いに流されそうになったが、必死に首を振った。
「だめだめだめ、絶対に駄目だ。
あんな風に別れたんだから、
お互いのすべきことをちゃんとしないと
駄目です」
「じゃあ、私も行くから。
2人の方が早く済むから。
稲生が浮気しないか監視しないと。
そうすれば子供たちも私たちの心配しないでしょう。
決まりね!」
そう言われてしまうと負い目から
稲生は何も言えず黙り込んでしまった。
稲生の右腕を掴み身体を委ねるリンだった。
家族はもどきからできるだけ離したかった。
押し切られるような形であのもどきとの
闘争にリンを巻き込むことになった。
稲生には後悔しかなかった。
一人旅と思いきや、、、