18. 王朝の自宅にて3(稲生)
稲生さん、家を出る!
翌日、稲生は、ドア越しにリンへ
暫く屋敷を出ることを伝えた。
ドア越しにリンの返事が一言、「うん」と聞こえた。
「稲生様、少ないですが、これをお持ちください。
それと所在は少なくとも私にははっきりと
させておいてください」
屋敷の正門を通る際にアルバンから
金貨を何枚か稲生は得た。
「アルバン、よろしくお願いします。
一応、ワイルド将軍のお屋敷で厄介になろうかと
思っています。
まあ、私なりにもどきたちについて調べてみようかと
思います。
どうもあの化け物たちに関して、
リンは口を噤むことが多過ぎて、
色々と判断に困ります。
それはあたなもですけどね」
「一体何のことか分かりかねますが、
所在に関しましては、了解いたしました。
くれぐれも無茶はしないでください」
曖昧な表情でありきたりな言葉に
終始するアルバンを見やり、稲生は笑った。
「僕もまあ、そうですね、
結婚というのもに囚われて、自由がありませんが、
アルバン、あなたの一生もそれでは囚われたままですよ」
けっ、おまえは自由に色んな女と
楽しんでるだろうがよ、この屑。
と心の中で毒づくアルバンであった。
そんな思いはおくびにも出さずに
慇懃な態度でアルバンは答えた。
「ええ、お金に囚われて、苦労しています」
ぎこちないアルバンのありきたりな返答に
稲生は軽く手を振って、屋敷を後にした。
時期は風の刻であり、涼しい風が時節、吹いていた。
心地よい風が街往く人々の一息つくよいアクセントになっていた。
そんな心地よい風を受けながら、
ため息をついて、ふらふらと歩く稲生だった。
「はあ、ふう、さてとどうしたものかな」
屋敷を出たはいいが、さてどうしたものかと
稲生は思案した。
何も考えずに宿に連泊すれば、たちまち金貨と銀貨は
底を尽くことは自明の理であった。
稲生は立ち止まり、思案すると、力強い足取りで
貴族たちの屋敷が立ち並ぶ方へ向かった。
「稲生、どういうつもりだ?
何故、私がお前を泊めねばならぬ。迷惑だ
ワイルドの屋敷でも訪ねればいいだろう」
開口一番、エイヤはそう言うと、
冷たい視線を稲生に送った。
召喚されたばかりの頃の稲生であれば、
縮み上がって、何も言えなかっただろう。
しかし、この世界で揉まれて、
それなりに図太くなった稲生は、
声高らかに詐術・詭弁を駆使して、まくしたてた。
無論、エイヤをその程度のことで、
納得させられるとは思っていなかった。
しかし、エイヤの後方に控えている細君は、別であった。
細君の表情は真っ青であった。
稲生さん、寝床を確保するのに必死なのだ!