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13. バリオス領1(才籐)

才藤さん、、、大丈夫?

 バリオス領ロジェール伯の邸宅の

応接室でそれなりの地位にある執事であろう

怜悧そうな男とテーブルを挟んで

メープル、才籐、そして、少し後方で

直立不動の態のイラーリオが対峙していた。


「当主を呼びなさい」

脚を組み、腕組みをして執事を

睨みつけるメープルであった。

普段のメープルでは、考えられない

ガラの悪さであった。

そして、才籐はちらりとイラーリオの様子を見た。

その姿勢は、騎士のそれに何ら遜色ない態度であった。

こいつ、単なる無学な無頼の徒でないなと

才籐が認識を改めていると、視線があった。

イラーリオはにやりとした。

才籐は、内心を見透かされた気分であった。


「メープル様、そのようなご無理をおっしゃられても。

そもそも突然の来訪にこうして、対応しているだけでも

感謝をして頂かないと。

ましてやメープル様、あなたは既に子爵家とは

関係ない身です」


メープルは柳眉を逆立てた。

右の二の腕が服の中でうねうねと動いていた。

その動きに呼応して、才籐の左脚がぶるぶると

震えていた。場の雰囲気は最悪であった。

そして、お互いに歩み寄る雰囲気は無いようであった。


「よろしい、それがロジェール家の総意と捉えます」

そう断言して、メープルは席を立とうとした。


「メープル様、この地を帝王より代々、

任されているロジェール家に

そのような根拠のない醜聞を持たれても

困ります。

あなたも元爵位を持つ者に連なるものでしょう。

そのような誤解がどのような悲劇を起こすかということを

分かっておいででしょう」

物腰丁寧であったが、表情は笑っておらず、

脅しと取られても可笑しくない執事の雰囲気であった。


「どうぞご随意に。

私見を変えることはありませんので。

当主からの釈明を伺いたかったのですが、

仕方ありませんね」

メープルは、席を立ちあがり、

ご機嫌ようと伝えて、応接室を出ようとした。

才籐もそれに倣った。


「おいおい、待て。

妻子ある男と同衾するような阿波擦れ司祭が。

子爵様のお耳に入ったら、さてさてどう思いになるかな。

可愛い娘が不倫かぁー。

あの謹直な子爵様のことだ、

さぞかし面白いことになりそうだ。

おい、おまえは何も見てない、知らない。

いいな、それで我々もおまえのことは

何も知らない、聞いてない。

それで手打ちだ、いいな」


才籐は、恐る恐るメープルの表情を覗いた。

意外と普通であった。ほっとしたのも束の間であった。


「才籐、このような場で女性の顔を

覗き込むとは一体、どういう料簡ですか?

最低限のマナーは学んだはずです」


「ぐううっ、ごうぅわぅ」


才籐はメープルに指摘されたことより、

呻き声が気になり、振り向いた。

口をパクパクと開閉させて、

震えている死にそこないの執事がいた。


才籐は慌てて、メープルを止めに入った。

「司祭、やり過ぎだって。やばいって」


メープルは顔を歪ませて、にやりとした。

「この男はアンカシオン教の教義の許、

死が確定しました。

事もあろうか、稲生様との逢瀬を

不倫などという下劣な行為と

同一にみなしたことは万死に値する。

苦しませなくないのならば、

才籐、あなたが刺しなさい。

その位の温情は許しましょう」


いやいや、アレが不倫じゃないならば、

何でもありになるでしょ。

という心の叫びを奥深くにしまい込み、

これから起こる惨劇を未然に防ぐことへ

全力を注ごうとした。


もはや突っ込みの徒と化した才籐さん!!

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