10. 到着1(才籐)
目的地はバリオス領
旅の予定は、遅れていた。
立ち寄る小さい村々で、信者であろうとなかろうと、
困りごとにメープルが首を突っ込むためだった。
年齢の割に童顔の愛らしい容姿、
細く長い金髪の髪とそれを後ろで
束ねる銀色の蝶の髪飾りが映えるメープルの姿。
そして、豊満なプロポーションの女性が
雄々しく立ち回り、困りごとを解決していく姿に
村人たちは、感謝と感動していた。
助けられた信者は彼女に向かって祈り、
信者でない者はその場で、宗旨替えするほどであった。
そんな姿を才籐は度々、目にして呆れていた。
彼女の裏の姿を知らない信者にか
裏の姿を完璧に隠し通しているメープルに
呆れているのか才籐も定かでなかった。
「まったく、清楚で素直で、何が愛に溢れているだよ。
信者どもは妄信しすぎじゃね。
あれで、まあ、裏では稲生と不倫を
楽しんでいる癖に全く、ありえねー」
口には出さないが、そんな内心をイラーリオに
見透かされたのか、笑いながら、肩を叩かれた。
「旦那、そう不満げな顔をしなさんな。
誰にも別の顔なんてあるさ。
喝采を上げている彼等にはあれが真実なんだから。
救いになるなら、いいだろうよ。
そもそも別の側面がある方が人間臭くていいだろ」
「いやいや、何にも言ってないし。
他人の不倫になんて興味ないし」
慌てて取り繕う才籐であった。
村々でアンカシオン教の威光を高めながら、
予定より大分遅れつつ、バルザース帝国の北方に
位置する大都市の一つであるバリオスに到着した。
鉱山を有するこの都市は、バルザース帝国の
重要な収入源を担っており、バルザース帝国の直轄領であった。
交易も盛んであり、特にドワーフの好む
アルコール度数の高い蒸留酒の産地としても有名であった。
周辺には、加工を特技とするドワーフの大きな集落があり、
闇と共にする黒エルフの村も点在していた。
「おおっ、ドワーフじゃん。結構、いるな」
街を行き来する人々を才籐は、
物珍し気にきょろきょろと見ていた。
「才籐、あまりジロジロ見ないように失礼でしょう」
才籐の行動を無遠慮に感じたメープルが窘めた。
「はいはい、気を付けますわ」
と才籐が応じたが、時、既に遅かったようであった。
柄の悪そうな連中が8人ほど徒党を組んで
3人に近づいて来た。
「おいおい、小僧。何を見てやがんだよ」
「話の如何では、男二人は開放してやっても」
「牢にぶち込まれたくなければ、出すもんだせや」
絵に描いたようなチンピラが絡んできた。
遠巻きに見ている人々はいるが、街の衛兵が
来るような気配もなく、人だかりができているだけだった。
「おうおう、ジロジロと街の女を弄るように
見るだけのヘタレかよ、お前は!」
「何とか言ったらどうだよ、ガキが」
難癖以外、何物でもない言葉を浴びせられるが、
3人は黙ったままだった。
しばらく言わせるがままであったが、
チンピラどもは元々、語彙があまりないのか
罵り疲れたのか、静かになった。
定番のチンピラ発生です!