9. 調査1(才籐)
才藤さん、出番です!
稲生やアルバンがキリアの屋敷に到着した頃、
バルザース帝国のアンカシオン教は、
地方教会へ使者と言う名の探索団を幾チームか派遣していた。
そのうちの一つに才藤を中心としたチームがあった。
「あちー。いつになったら、涼しくなんだよ、ったく」
馬に揺られながら、愚痴を零す才籐だった。
少しずつだが、涼しくはなっている。
しかし、まだまだ、暑い時期は
しばらく続きそうであった。
「今、向かっている地域は、そんなに蒸し暑く無い筈だ。
その点は助かるんじゃないかな」
アンカシオン教の派遣団についてきている
イラーリオが才籐に伝えた。
「そっそうか、ならいいけど」
素っ気なく返答する才籐であった。
「あのお嬢と逢瀬を楽しむ時間が取れなかったとはいえ、
旦那もそういつまでもカリカリしなさんなって」
「そんなじゃねー。
そもそもビルギットとはそんな関係じゃないようなあるような。
とにかく違うんだ。
なんでおまえがこんなところまで付いて来てるんだ」
才籐がついつい、イラーリオに激しく突っ込みを入れた。
「そりゃあ、アンカシオン教団に雇われたからだよ。
金の分は働くさ。
それにおまえらについていけば、
あいつにまた、会えるだろ?
おまえらも強い傭兵を雇えて、俺も目的を果たせる上に
金も得られる。丁度、いいじゃん」
才籐は押し黙った。そして、ため息をついて、
フードを被り直した。
次の目的地である街までは、もう少しかかりそうであった。
先のレズェエフ王国との大戦で怪我を
負ったイラーリオは、アンカシオン教で治療を受けた。
しかし、アルフレード皇子は、紆余曲折の末、
敗軍の将として第一線を退いた。
そして、小さな荘園の邸宅に住むことになった。
体のいい幽閉であった。
傭兵として雇われていたイラーリオは、
報酬を貰い損ね、教会へ治療の対価を払うことができず
にいた。教団からの折衷案として、アンカシオン教に
傭兵として雇われることになった。
そして、顔見知りであった才籐とメープルの旅の
護衛に就くこととなった。
イラーリオは、いずれあの魔性の女と再会し、
倒す腹積もりであった。
彼の直感でこの二人に同行すれば、
いずれ再会できると判断していた。
そのため、アンカシオン教の提案に乗った。
「ふん、あいつらに義理なんぞないが、
良いように利用されて終わりじゃ、
あいつらも死んでも死に切れんだろう。
奴を斬れる実力があるのは、生き残ったなかじゃ、
俺くらいだろう。
だから、仕方なしに俺がやるんだよ」
イラーリオがメープルに旅の同行を了解した理由を
尋ねられた時、そう嘯いた。
才藤さん、ちょっと不貞腐れている。ちなみに稲生さんのようにすけこましでなく、
捻くれ者の一途な男かもです。