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7. 自宅にて2(稲生)

一体何が!

稲生は、魔術を扱えないが

それなりにそういった類のことへ

携わってきたために直感で直情的な行動に

出ることを抑える事ができた。

それは、恐らく魔力の暴発という大惨事を

回避することに繋がっていた。


アルバンにここで待機するように指示し、

妻の正面にゆっくりと向かった。

彼女の視界に入る位置まで移動し、

稲生の姿が彼女の瞳に映るようにした。

稲生の視線もまた、彼女の正面を捉えた。


久しぶりに見る彼女、面影はあれど、

そのやせ細った容姿は幽鬼そのものだった。

彼女の瞳に稲生が映っているが、詠唱は止まらず、

瞳は杖の一点を見つめ、動かなかった。


稲生は一瞬、息を飲んだが、意を決した。

陣の中央にいるリンへ近づいた。

「リン、ただいま。約束通り生きて戻りましたよ。

健康そのものです。

君に伝えた僕の祖国のあいさつを聞きたいな」


杖を握る彼女の両手を稲生はやさしく包んだ。

リンの詠唱は止まらないが、瞳は彼を捕えた。


「あっ、稲生」


詠唱が止まった。


その瞬間、稲生は力強くやせ細ったリンを

抱きしめて、魔法陣が飛び退いた。


事態の急転にリンはついていけず、

呆けてしまった。

しかし、事の重大さに一瞬で気づき、

慌てて、稲生に声をかけた。


「ちょっと、稲生。陣が崩壊すっ、、、」

リンが暴れ出し、杖を握りそうとした。

稲生がそれを取り上げ、魔法陣の中心部に投げつけた。


陣の中心に刺さると、どういう原理なのか

杖は吸い込まれてしまった。

そして、周囲を満たしていたひりつく空気が

地下室特有の淀んだ空気となった。


アルバンは、腰から崩れ落ちて、

その場にへたり込んでいた。


「ふううっ、助かりましたね」

崩れ落ちそうなリンを支えながら、

稲生がフードで覆われたリンの顔を覗き込んだ。


「見ないでっ」

手でフードを下ろし、顔を隠そうとするリン。


稲生はリンを力強く抱きしめると、改めて、伝えた。

「ただいま、リン」


しばしの無言が薄暗い地下室を支配した。

「ううっ、おかえりなさい、あなた」

リンは稲生に身体をあずけた。


そんな仲睦まじい様子をアルバンは

見ながら、胸中、毒づいた。

「あのバカップルが!

一歩間違えれば、心中沙汰じゃねーか。

危うく巻き込まれそうなったわ」

普段のアルバンなら、心内の叫びで済んでいたはずだった。

しかし、余程、気が動転していたのか、

その叫びが声となり、駄々洩れになっていた。


その叫びに応じるように稲生は

やれやれと言う感じ、苦笑しながら

リンを抱きかかえた。


リンはアルバンを一睨みすると、瞳を閉じた。

アルバンは己を失策に気づき、慌てて立ち上がり、

深々と一礼すると、彼等より先に地下室を

駆け上がった。


アルバン―自分でピンチを作る男!

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