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7.式典

あと少し!

「九之池さん、起きてください。

今日は、爵位授与式の日です。

既にシリア卿が手配した方々が

準備に来られています」


ベルトゥル公国の初の召喚者であり、

レズェエフ王国の侵攻を挫く近年稀に

見る功績を上げ、冒険者として数多の実績を

もっての授与であった。

しかし、当の本人は、この期に及んで

式典に行くことが億劫で、所持全般にのろのろとしていた。


その態度に業を煮やしたルージェナが一喝した。

「いい加減にしてくださいー。

さっさと着替える。そして、整える!」

ルージェナが九之池の側でわーわー騒ぎ立てた。


「うん、うーん、苦しいのだ」

正装に身を包んだ九之池は、苦しんでいた。

しかし、この世界でたるんだ身体は、

それなりに絞り込まれ、中年紳士の

たるんだだらしない装いのようには見えなかった。


そんな感じの九之池をルージェナが見ると、

ガッツポーズで言った。

「見えます、見えます。十分な貫禄がありますよ。

男爵の立場に相応しい出で立ちです」

心底、嬉しそうに九之池の周りを

ぴょんぴょん飛び回っていた。

当の本人は、苦しさにそれどころでは無く、

ふらふらしていた。

そして、最終的にルージェナに支えられて、公宮に向かった。


式典の開始前に九之池は、久々にシリア卿と

サンドリーヌ卿に面会し、式典での受け答えについて、

説明を受けた。

苦しさの限界が近いのか、彼等の説明にただ、

げふん、げんふんと相槌を打つだけだった。

幸運なのは、苦しさのためか、緊張することなく、

式典に臨めそうなことであった。

二人の伯爵は、真っ青な顔をしているが、

以前のように全身汗まみれなっていないため、

一抹の不安を抱えながらも安堵して、控室から去った。


「ふう、汗まみれの御仁を式典に

向かわせずに済みそうですな。

流石に汗まみれでは、我らと同じ貴族に

準じるための式典には、いささか似つかわしくないですからな」


サンドリーヌ卿の見解に同意しつつもシリア卿は、

気難しい表情した。

「あの青白い顔が気になりますがね」


「シリア卿、全てに完璧は求めぬことです。

元々がアレな人物でしょうし、仕方ありませぬ」

二人は顔を見合わせ、ため息をつくと、

式典の会場に向かった。


式典は始まった。


ベルトゥル公の両脇に廷臣たちが並び、

中央に敷かれているカーペットの上を

九之池が歩き始めた。


右腕と右脚、左腕と左脚が同時に動き、

一歩、歩むごとに苦しさが薄れ、息苦しさに

取って代わられていた。


「はぁはぁはぁ」


乱れる呼吸が静かな式典の場に響いていた。

眉を顰める廷臣たち。


ベルトゥル公の眼前で直立不動の体勢を

取る頃には、全身から、奇妙な音が流れ出していた。

ベルトゥル公を前に九之池は、緊張のあまり、

カタカタと歯が震え、コトコトと足が震え、

床を叩き、パチパチと若干は引き締まった腹の肉が

震えていた。


左右の廷臣たちは、笑いを抑えるのに必死であった。


九之池さん、ふらふらー

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