3.同好の士
この世界にも!いるっ!
そんな話をしていると、少し太めの
見知らぬ中年男性が九之池たちの前に現れた。
「ふうふう、どうも初めまして、
今回、九之池様にお屋敷を
仲介させて頂くことになりましたフォーダムといいます」
右手を差し出し、握手を求めた。
九之池も慌てて、立ち上がり、挨拶を交わし、
差し出されたフォーダムの右手をしっかりと握った。
気のせいか握った右手は、湿っていた。
九之池は、男を観察した。
小太りな上に長年の不摂生のため、
たるんでいるように見えた。何だか全身が
湿っぽいような雰囲気で、ワイシャツなどを
夏場に着ていれば、汗で湿って、
透けてしまうような気がした。
ふむ、こいつは満員電車で不快指数を
梅雨や夏場に上げる奴だなと九之池は、想像した。
同族嫌悪であろうか、九之池は、非常に
不快な気分になった。
そして、こいつはうだつが上がらない
サラリーマンに違いないと認定した。
「フォーダムさんでしたっけ?
ギルドから連絡を受けたと思うけど、
紹介できる物件の候補はあるの?
いくつかここで話してくれません?
そしたら、内覧にすぐでも行きたいのだけど」
九之池にしてはめずらしく矢継ぎ早に捲し立てた。
どうやら、困らせてやろうと思っての態度なのだろう。
「ふうふう、そうですね。
いくつかご紹介できます。
外に馬車を待たせてありますので、
私の事務所に向かいながら、お話ししませんか?」
九之池の渾身の一撃は、軽くいなされた。
九之池は、頷く以外の答えは持っていなかった。
この男の慌てふためく姿を見てやろうと
意気込んだ九之池の思いは、宙に浮いてしまい、
何とも締まらない表情のまま、馬車に乗った。
ルージェナは、知らぬ存ぜぬを貫き通し、
九之池の隣に着席した。
ちらっちらっ、フォーダムは先ほどから
正面に座るルージェナをチラ見していた。
その視線に九之池は、気づいた。
どうも気になる視線であったが、特に指摘する訳でもなく
そのまま放置した。ルージェナも気づいたが、
平静を装っていた。
馬車がフォーダムの商館に到着し、
商談を行う部屋に案内されると、九之池は、
先ほどのフォーダムの視線に納得してしまった。
そして、唸った。
「ふぉおおぅ。
この世界でここまでここまで!
想像を働かせるとは!」
九之池とルージェナを部屋に案内し、
飲み物を準備する女性を一心不乱に
九之池は凝視していた。
無論、九之池のいた世界に比べれば、
まだまだ、改善の余地はあるうだろうが、
十分なクオリティーのメイド服であった。
そして、よく似合う女性であった。
フォーダムは、そんな九之池を見て、
勝ち誇ったような笑みで尋ねた。
「九之池さん、いかがでしょうか?」
「ふーむ、これはこれは。
しかし、ルーたんほどではありませぬな」
そう言うと、九之池は、紙と筆を借りると、
さらさらとラフなスケッチを始めた。
そして、そのラフ画を見ると、
フォーダムは、口を開いて、呆けていた。
「ちょ、九之池さん、人をモデルにして、
何を書いているんですか!」
書かれたものを取り上げて、
処分しようとすると、フォーダムは、
狂騒の態でその紙を奪うと、
うやうやしく九之池に一礼した。
「始めてお会い出来ました。
師と呼ばせてください。
これは、家宝として、
大切にさせていただきます」
「おっおう」
「いや、困ります。返して下さ」
ルージェナをガン無視して、話を続けるフォーダム。
そして、それに熱く答える九之池。
あまりにもルージェナが傍で騒ぎ立てるので、
仕方なく、九之池は、フォーダムに
書き溜めてある色つきの絵を渡すことで、
ラフ画を処分することにした。
「当たり前です!
あんな服装をした私が家宝で
一生残るなんて、あり得ないですよ」
と言うルージェナに九之池が苦笑しながら、言った。
「でも他のもルージェナがモデルだけど」
「はあああっーお渡しする絵は、
私が一度、ちぇっくしますっ!」
「ところで師匠、お屋敷の件ですが、
いくつか候補となる物件をご紹介いたします。
まだまだ、家業を引き継いで間もない故に
至らぬ点がございましたら、お気になさらずに
お伝えください」
師匠九之池さん!