2.首狩り族
噂の人っ!
屋敷の斡旋をして貰う為に
九之池は、商業ギルドへ仲介業者を探しに向かった。
「あのーすみませんけど、賃貸物件を
仲介できる方を紹介して貰えませんか?
あっちなみにこの娘も一緒なんで
二部屋以上でお風呂付きですけど」
到着までに十分に考察し、何度も
脳内トレーニングした結果、
淀みなく受付嬢に答えることができた。
九之池は、この結果に十分に満足し、
既に目的を達成した気分になっていた。
説明を受けた受付嬢は、胡散臭げな視線を
九之池に送っていた。
上品そうな女性と胡散くさい男、
九之池とルージェナの関係にいかがわしい何かを
感じたのだろうか、若干、眉間に皺を
よせる受付嬢であった。
方や満足そうに方や胡散臭げな表情に
ルージェナは何かを察したのか、
九之池の説明に補足を加えた。
「すみません、この方、九之池様は、
一代爵位を授与いたしますので、
それに見合うお屋敷をご紹介して頂きたいのですが。
シャントゥール伯爵のご紹介でここに参りました」
にこやかに答えるルージェナに受付嬢は、
彼女を愛人でなく、九之池の使用人か
シリア卿の部下と勘違いしたのか、表情を改めた。
「そういうことでしたら、少々、お待ちください。
仲介できる方をご紹介いたします」
待合室の椅子にすわると二人は話し始めた。
「ちょっつと、家を買うような気はないよう。
ってかお金ないし、派遣先が変わったら、困るじゃん。
それにローンとかめんどくさいし。
まともな大家だったら、家の故障とか迅速に
対応してくれて、楽だよ。
業者を自分で手配するとかないわー。
もしかして、こっちは礼金とか敷金が異常に高いの?」
前世界の経験が少し混じっているようなことを
言い出し始める九之池だった。
「ちょっ、九之池さん。
何言っているのかわかりません。
爵位を持つ者が賃貸とはぜっ絶対にあり得ません。
シリア卿に叱責されますよ。
そもそも別宅として、愛人を囲うとか、
何かしらの拠点としてなら、
まあ、100歩譲っていいとしましょう。
しかし、本宅は絶対に別です。
貴族の方が住まう居住区に本宅を
かまえないといけません。ルールですっ」
二人が住宅論に白熱した意見を交わしていると、
周囲にちょっとしたざわめきが起きていた。
ここは、商業ギルト、情報や噂に疎い者は少なく、
それらを貪欲に欲するものが大勢いた。
「おいおい、あれが噂の救国の英雄か?」
「みたいだな、確か黒豚団とかなんとかの冒険者だったはず」
「あーあの噂の雑魚狩り専だよな」
「で隣の女は?」
「隣の女が例のアレだよ。よくアレと寝られるな」
「そうそう、アレと懇意にしていると、
ベッドで豚に上手く話を通すらしいな」
「言葉遣いに気を付けろよ!首狩り九之池だぞ」
「おっそうだった。気を付けないと」
「ねえねね、ルージェナ、ちょっと、
イラっとするような話が聞えるんだけど。
それに首狩りって何?なんか知らない?」
九之池が周りを睨みつける様に見渡すが、
喧騒は収まらなかった。
「まあ、九之池さん。気にしないでください。
噂になるということは、それだけ注目されていると
言うことです。それに噂には尾ひれがつくものです」
ルージェナが特に気にした風もなく答えた。
「いやいやいや、僕のはまあ、いいとして。
ルージェナのは、気に入らない」
右手に棍棒を握り、肩に乗せて、
再度、周りを威嚇すると、流石に周囲のざわめきが
少なくなった。
「まーそうですね。
では、噂を事実になさりますか、九之池様」
とルージェナが上目遣いに九之池の瞳を
覗き込み、身体を密着させた。
「ふーふーむぐっ、ルージェナそういうのいいから。
いいから。それと、首狩りって何?」
全身を緊張させながら、ルージェナを引き離してから、
質問した。
ルージェナがにまにましながら、説明を始めた。
一旦、落ち着いたざわめきがまた、大きくなっていた。
「あれは、シリア卿に首を返す様に
命令を受けた使用人がヘーグマン様の嫌味なんて、
言えないから、腹いせに九之池さんのやったことにして、
どこかで愚痴をこぼしていたんでしょう。
その噂に尾ひれはひれがついたんでしょうね。
首狩り九之池って言えば、ギルドや市場での
一番の話題ですよ」
噂の最たるところは、問答無用で首を刈り取り、
持ち帰った生首二つを片手に己の信じるところを
表明し、用済みとなったそっ首二つを
獣人王国の商館に大笑いしながら、
放り投げたということだった。
よくもそこまで脚色できるものだと、
市井の人々の想像力に感心する九之池であったが、
どうにもこうにも広がり過ぎた噂は、
自然に収まることを願うことしかなさそうであった。
人々の話題や噂は、移ろいやすいものです
というこがルージェナの意見であった。
誤解が誤解を呼ぶ