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95.不快(稲生)

疲れたのだ!ワクチン接種で左腕が痛いっ!

稲生は九之池に近づくと、

めずらしく露骨に嫌な顔をしてしまった。


彼の目に映る九之池は、ぼりぼりぼり、

アニメならそんな音が入るようなことを

寝ているとはいえ、女性の前でしていた。

何だろうか、特に九之池は悪いことを

している訳でもなく、ただ、そこへ寝ているだけなのに

稲生は、ソレを生理的に受け付けなかった。


へその周りに生える微妙な体毛。

多少は引き締まっているが、長年の不摂生の賜物で

であろうだらしなく、たるんで映る下腹。

そこを右手で掻きむしっていた。

どうしようもなく不快感がこみあげてきてしまい、

この男を蹴り飛ばしたくなってしまった。


ルージェナと稲生は視線が合った。

ルージェナは苦笑して、人差し指だけを立て、

形の良い唇にあてた。

そんなルージェナの仕草に稲生は、ぐっとくるものがあり、

何とかしてやりたい、否、助けてやりたいと思ったが、

この世界では、大人になるのが早い。

彼女には、何かしらの思いや企みが

あるのだろうと稲生も思い、やめた。


「アデリナさんがもう十分だろうとのことです。

二人ともあの山から持ち帰るものを

決めてください遺跡の外とはいえ、

何が起こるか分かりませんから、急いでください」

と稲生は眉を顰めて、答えた。


ルージェナは可笑しそうに笑顔で答えた。

「稲生さんがそんなに眉を顰めて、

話すなんて珍しいですね。

いつも冷静にしているから、

面白いものを見られた気分です」

と言って、九之池を起きてくださいと揺すり始めた。


 中々、起きない九之池に業を煮やした稲生は、一言。

「九之池さん、お宝が無くなってしまいますよ。

ウルトラレアリティアイテムは極わずかですよ」


突然、九之池の上半身だけが起き上がった。

下腹が邪魔をしているとはいえ、その状況は、

綺麗な直角を描く姿勢であった。

その体線に稲生は思わず、感心してしまった。


「ちょっ、これ、どういうことですか!

私が幾ら起こしても起きなかったのにぃー。

まさか休みたいから、寝たふり?」

物凄く悔しがり、九之池を疑うルージェナだった。

綺麗な直角の姿勢で、汗をダラダラとかく九之池だった。


稲生は確信したこいつは、寝たふりをしていたと。


九之池はむくりと立ち上がり、稲生に話しかけた。

今まで、寝ていたのが嘘のようだった。

「稲生さん、ささっ、行きましょう。

ふおう、ウルトラレアっ!ウルトラレアッ!

ルーたん、行くよう」

謎な歌を歌いだし、腹を揺らしながら、

スキップして、お宝に向かう九之池だった。

そんな九之池を慌てて、追うルージェナ、稲生は

やれやれと言う感じでゆっくりと歩き出した。


 武具や防具の山を漁り、約半日、

各々は充分な成果をあげたので、移動することにした。

「ふぐぐう、馬車までの我慢だ」

最も多くのものを担げるだけ、持てるだけ、

詰めるだけ詰め込んで、歩く九之池は、数歩、

歩くごとに己を奮い立たせるために何かを叫んでいた。

周囲には愚痴にしか聞こえなかった。

下る方向であるぶん、随分と楽であったが、

各員、それなりに担いでいるため、

九之池の叫びが余計に疲れを感じさせていた。


「このまま、山を回るように下ると、

例の村に到着しますね」

稲生がアデリナに話しかけた。


「ふん、そうだろうな。

だが、それ以外に選択肢があるか?

食料やその他の準備にどうしても

立ち寄らざるを得ないだろう」

アデリナは面白くなさそうに言った。


稲生はその表情を見て、住民と

ひと悶着ありそうだなと思った。

問題は、住民がどこまで、この遺跡に

関わっているかと言うことであった。


夜営で一夜を過ごし、5刻頃、

稲生たちが最初に突入した付近に到着していた。


そして、多くの人の気配があり、

アデリナが伏せる様に指示した。


少し遠目であったが、稲生たちには、

住民たちが行っていることを確認することができた。

そして、誰も一言も発せずにいた。


住民は、無数のドロドロになったモノを

再度、遺跡の入り口に放り投げていた。

運ぶ途中で身体が崩れるモノは、

各々のパーツを放り込んでいた。

たまにそれらのモノが激しく動いて、

逃げ出そうとしていたが、容赦なく住民に

棍棒のようなもので叩きつけられて、

奇怪な叫び声を上げながら、放り込まれていた。

一様に、体毛がなく、表面は白く赤い筋が浮いていた。


いつものことだが、まず、九之池がその光景を見て、

うげげぇと吐いていた。

そして、他のメンバーは、九之池の

その行為によって、多少なりとも

冷静さを取り戻していた。


稲生さん、不快な気分!

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