91.ビビる(稲生)
ふううっー更新できそう!
休憩が終わり、半刻ほど進むが全く変化がなかった。
先頭を歩くアデリナが立ち止まり、
一行に止まるように指示を出した。
そして、ヘーグマンに何かを指示した。
ヘーグマンは頷くと、側面の壁に向かって、
大剣を振りおりした。壁が肉のように裂けた。
そして、裂け目から、薄い乳白色の液体が流れ出した。
若干の酸味を帯びた生臭い臭いが通路に広がった。
アデリナが吸い込まないように指示を出して、
此処から素早く移動するように指示を出した。
「さて、どうしたものかな」呟くアデリナだった。
「何かわかりましたか?」と稲生が尋ねると、アデリナは、続けた。
「さっき、九之池が言っていた通りだよ。
体力の消耗した生物をゆっくりと
この通路で消化するんだろうよ。
その後、武器や防具、貴金属といったものを吐き出して、
近隣の住民がおこぼれに与るのだろうな」
「ひえっ」九之池が情けない声を出した。
「そうなりますと、近隣の住民は、
みんな知らぬふりをしていたと言うことですね。
積極的に噂を流して、冒険者を
集めていたかもしれませんね」
と稲生が神妙な面持ちで話した。
「そうだな、ありえそうな話だ。
各冒険者は、全て別の通路に案内されているのだろう。
遺跡の容量の限界まで、金や高級そうな武具を
纏った冒険者から案内していたんだろうな」
アデリナが見解を述べると、両腕を組んで、
周りに現状、どうすべきかの意見を求めた。
「今のメンバーで対応するとなると、火ですね。
斬っても白い体液が流れますから、
それを瞬時に蒸発させるくらいの火で壁を
破れば、私たちを異物扱いして、放り出すかと」
稲生がそう述べると、対抗心を燃やした九之池が話し出した。
「いやいや、蒸発させたら、臭いが充満するでしょ。
ダメダメ、ここは凍らせて、叩き割るのが一番ですよ」
得意げに語る九之池だった。
その考えは、稲生にもあったが、
肝心の冷気系の魔術の得意なメンバーが
いなかったために断念していた。
恐らく、アデリナも気づいているのだろう。
「あほ、どこにそんな強力な水の魔術を
扱える奴がいるんだよ。
ルージェナの炎の魔術に期待するしかないだろうな。
それが無理なら、アレが流れ出す前提で
一か所に全員の最大火力で攻撃だな」
「ぐむむっ」
顔を真っ赤にして悔しそうに俯く九之池だった。
アデリナに指示され、
ルージェナが蒼白い炎の槍を2本分、詠唱した。
「ふん、酷いことにならなければ、いいけどね」
と、ルージェナの詠唱の邪魔をするかのように
傍で九之池は、ぶつぶつと愚痴を呟いていた。
一応、ルージェナの身を案じているのか、
棍棒を構えて周囲を警戒していた。
他のメンバーも武器を構えて、周囲を警戒していた。
「はぁああぁ、行けぇー」
ルージェナが炎の槍を一本だけ、壁に向けて放った。
壁には大穴が開き、炭化していた。
そこにヘーグマンが松明を放り投げた。
どろり、粘性のありそうな白い液体が
ゆっくりと空洞となった部分へ流れ出した。
そして、どろりどろりと人の形をした何かが
何体も液と共に流れて来た。
肌がつるつるで体毛が全くなかった。
そして、瞳のあるべき場所にそれはなく、くぼんでいた。
口元からは、白い液が涎のように流れ出ていた。
「いっ稲生様、アレは!」
アルバンが恐怖のためか震えていた。
「稲生さん、あれって、あれって、アレは」
九之池はその場に立ち尽くし、震えていた。
ルージェナは、もう一本の槍を維持するためか、
目を背けながら、魔術に集中していた。
稲生は、ぼーっとクジラに飲み込まれた男の話を
思い出していた。
ゆっくりと胃液で溶かされて、死んでいく男の話。
体毛が溶け、爪が剥離し、皮膚がゆっくりと爛れていく話。
フィクションであろうが、正に自分たちの置かれた状況が
それであるとぼんやりと思っていた。
二名ほど、この異常な状況下で心が乱されず、
冷静に判断していた。
「ふむ、消化途中の冒険者だった者ですな。
しかもまだ、息があるようです」
ヘーグマンが呟いた。
「ふん、こうなってはどうにもならないな。
あまりなことだが、眠らせてやるのも人情だろう」
と言うと、アデリナは、数体のそれ目がけて、
短剣を投擲して、心臓を貫いた。
ソレは、声帯が解けてしまっているのか、
呻き声一つ出さずにその場で弛緩していた。
死んだかどうか判断つかなかったが、
口元らしきところが一瞬、何かを伝えようと
動いたように稲生たちには、感じられた。
眠いー夜中だ!