77.才籐、出陣(才籐)
やっと出番キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
レズェエフ王国の宮廷魔術師であり、
水の魔術師連盟 第2席のアグリッパは、
水色のローブを自室で脱ぎながら、
ベッドの上でパタパタと舞っている者に声をかけた。
「むこうさんにも力を貸している者がいるな。
おまえの知り合いか?」
「おそらくねーそうだと思うよ。まあ、負けないけど。
それに手段が違うだけで、目的は同じだから、
奪還計画に左程の障害は生じないよ」
「それなら、良いが。
それより、また、魔晶をよこせ。
必要になる」
と素っ気なく答えるアグリッパに対して、
「いいけどぉ、前ほど集まっていないから、
豪雨は無理だよ。
代わりにまた、獣か召喚者をあげるよ。
前回と違って、暴走しないよう十分に調教済みだから、
安心してねぇー」
パタパタとホバーリングしながら、
にこやかに答える妖精もどきであった。
「それで、よかろう。
あのあたり一面を湿原に変えるのでなく、
湿度を上げるようにしたいだけだからな」
と変わらず、素っ気なく答えるアグリッパであった。
「相変わらず、素っ気ないねー。
もうちょっと愛想よくしたら、サービスあるかもよぉ。
じゃあねー」
というと窓から、パタパタと飛んで出て行った。
その姿を見やり、アグリッパは、
「そんなことある訳ないだろうよう、化け物が」
と呟いた。
バルザース帝都にて、戦勝の報告を受けた現帝王は、
最前線の兵員補充の要望を受けた。
無視できぬ損害であったが、この完勝の後では、
要望を退けることは難しかった。
「アルベリク侯爵に伝えよ。
先の大戦の汚名を注ぐ機会をやるとな」
帝王がそう言って、近習の者に伝えた。
そして、続けた。
「もう一人の召喚者も出征させろ」
恭しく近習の者が帝王の命令を受け、
各所に伝令に向かった。
一週間後、馬に揺られて、何かと
縁のあるアルベリク侯爵軍の一翼として、
才籐は、戦地に向かっていた。
左脚は、だらりとなり、時節、奇妙な動きをしていた。
才籐は気にする風もなく、飄々としていた。
アンカシオン教の神官戦士が何人か、
護衛についているようであった。
「暑い、暑い、そして、じめじめし過ぎ。
この時期にあの地域に行くのは地獄だな」
と傍の神官戦士に声をかけた。
「ここはまだ、いい方です。
おそらく、国境線の城に近づけば、
近づくほど、酷くなります」
と慇懃に答えた。
ふと、メープルの方に目をやると、
片手で少し服の胸元を拡げて、風をいれているようであった。
その豊かな胸元に釘付けになっている才籐は、
騎乗して、少し蒸れ気味の鼠径部が更に熱くなり、
馬上でもぞもぞとしていた。
才籐は、メープルの胸に注視しながら、
なんで稲生ばかり、美味し思いをと
この場にいない稲生に怒りを覚えた。
才籐の視線に気づいたのか、メープルは、
「才籐、まだまだ、その左脚に慣れていないでしょう。
余計なことを考えずに集中しなさい」
と叱責した。
内心を見透かされたような気分になり、
才籐はついつい、語気を荒げてしまった。
「わっーてるよ。ちゃんと集中して騎乗している」
その瞬間、馬が暴れ、才籐は慌てて、
振り落とされないように馬を落ち着かせた。
そんな様子をメープルが呆れたように見ていた。
アルベリク侯爵は、軍の中央付近で進軍しながら、
アグーチンに今後の展望を相談していた。
「導師、流石に今回は、レズェエフ王国と
矛を交えないとならないでしょうな」
「今回ばかり、帝王、直々のお言葉もありますでしょうし、
仕方ありませぬ。
将来に備えることも必要じゃが、
疑われて、罰せられては本末転倒」
とアグーチンは苦虫を噛みつぶしたような表情で答えた。
顎に手をやりながら、アルベリク侯爵は、
ふと、思案気な表情になった。
「侯爵、何か不安ごとか?」
とアグーチンが尋ねると、
「いえ、確かにあの奇怪なる妖精からの
大方の情報通りに世が動いているとは言え、
どこまで信用していいものかと思いまして」
「ふむ、確かに。あのような奇怪な者、信用に価せぬな。
しかし、ここまでのところ、予想が外れたこともあるが、
大方の情報通りであることに違いはないのも確かであるわ」
アグーチンが苦々し気な表情で答えた。
「ふむ、備えておくに越したことは
ないということですね、導師」
「奴の目的が何であれ、まっこと、
苦々しいが、その通りである」
アグーチンが苛立し気に答えた。
二人の話題は、如何に損失を
過少に抑えるかに焦点が移り、
その議論は、夜営が始まるまで続いていた。
みんなの才籐さん!
出番です。