76.皇子、軍議に参加(才籐)
戦況に全く影響しない才籐さん。
「皇子、何か気になる点があるなら、言って頂きたい」
と周囲を制して、アルフレード皇子が言った。
「アルフレード皇子、入城してあの城を拠点にするのですか?」
諸将がその質問にあからさまに馬鹿にしたような表情をした。
「そのつもりですが、何か」
「いえ、駐屯していた兵士の数が多過ぎもせず少々、
少なかったように感じられまして、
どうも誘い込まれているのではないかと感じまたので」
どうも皇子にはこの殲滅戦は出来過ぎのように
感じられていた。
そして、この国境の最前線にしては、
兵及び将の質が低すぎる様に感じられていた。
流石にそこを指摘しては、嫉妬と捉えられかねず、黙っていた。
「おおう!この空前絶後の大勝利にケチをつける気かっ!」
アファバが目の前の卓を素手で叩き割り、吠えた。
「確かに皇子の言うことに一理ありますが、
少なすぎることはないでしょう。
それに将兵をそのような捨て駒にするようなことを
レズェエフ王国がしますかな」
とイラーリオが取りなした。
どうもその絶妙な兵士の配分が
皇子の脳裏に警鐘を与えていた。
アルフレード皇子は、どうも議論というより、
纏まらない会議に嫌気がさしたのか、
傍に控える黒きフードに身を包む人物に声をかけた。
「問題ございませんでしょう。
この城、この兵数を餌にするなど、
正気の沙汰ではございません。
アルフレード皇子の胆力、智謀が
生んだ結果でございます。
ここを拠点にするに問題はないでしょう」
一旦、言葉を切り、そして、言った。
「おそらくは、皇子の嫉妬でしょう」
なまめかしい女性の声だった。
そして、最後の発言には、毒があった。
「軍師、言葉を慎みなさい。
過去、バルザース帝国において
多大な功績を上げた人物に
対する相応しい発言ではありませんよ」
とアルフレード皇子は、そう言いながらも軍師に
賞賛されたのが嬉しかったのか、にこにこしていた。
「では、予定通り明日、入城ということで進めます。
皇子は、周囲に残っているレズェエフ王国の砦に
警戒をしてください。
落ち着きましたら、入城としてください」
と一人の将が言って、軍議は閉幕となった。
レズェエフ王国の王都にて、戦況報告を
受けた現国王は絶句した。
「全滅、対陣して1日持たずに
全滅、全滅か、真に全滅したのか」
玉座に座る国王は、全滅という言葉以外に
知らぬかのごとく呟き続けた。
確かに囚人やら問題のある兵、将を集めて、
駐屯させたが、流石に1日で全滅の報を受けて、
精神の平衡を保てる程、剛の者ではなかった。
どちらかと言えば、軍事より、内政や芸術方面に
重きを置いていた国王であり、あまり軍事には
興味がない国王であった。
宮廷魔術師や諸将に唆されて、戦を起こしたが、
ベルトゥル公国方面の戦況も芳しくなかった。
戦況の推移は、レズェエフ王国の思惑通りとはいえ、
全滅の敗報を受け、王の心を乱した。
眼前で畏まる宮廷魔術師がこの敗報を受け、
嬉々として、次の策に移るように国王に促した。
「この時期より、あの地域は蒸し暑くなり、
死体の処理が遅れれば、城内は酷い惨状となります。
予定通り、軍をすすめましょう。
そして、バルザース帝国軍が城に籠るなら、
また、雨を降らせます。
湿度が上がり、籠城戦は困難を極めます。
あわよくば、バルザース帝国の第三皇子を
捉えることもできましょう」
宮廷魔術師の言葉に諸将が唱和した。
王の眼下で唱和する者たちを気味悪げに王は見ていた。
あれほどの死者が出ているのにこ奴らは
何も感じていないのか。
そして、どうも拒否できぬ雰囲気に
レズェエフ国王は、圧迫を感じた。
「国王、お言葉を」
と傍に控える宰相が言葉を促した。
「うっうむ、そうじゃのう。
予定通り精鋭の兵をもって、
我が国を蹂躙したバルザース帝国をおっ追い返せ」
威勢よく言うつもりが、どうも慣れていないのか、
舌を噛んでしまった。
しかし、諸将はそんなことは気にせず、王の言葉に
呼応するかのうように玉座の間を歓声で埋め尽くした。
あらら、活躍の場がなく。終わったような気が!