73.皇子出陣(才籐)
才藤さーん、出番です!
稲生がバルザース帝国からベルトゥル公国に
向かっている頃、そして、九之池が丘の上で
レズェエフ王国軍と対陣していた頃、
バルザース帝国軍は、レズェエフ王国の国境線の城を
包囲していた。
バルザース帝国軍を率いるは、
帝国王位継承権第3位のアルフレード・バルザースであった。
「兵は神速を尊び、己の武勇をここに示せ」
レズェエフ王国の城を包囲し、全軍を前に
堂々たる演説で兵を鼓舞する姿は、
強兵の国の王族に相応しい姿であった。
「ふむ、ここまでは、順調に進んでいますね。
サヴォワ将軍、念のためにここまで征旅で、
放置したレズェエフ王国の砦に斥候を
送っておいてください」
アルフレードの演説に呼応する兵士の歓喜と
咆哮をよそに皇子は、ザヴォワに指示を下した。
「はっ、了解いたしました」
とザヴォワが短く答えると、
宮廷魔術師第4席のカール・ヴェンツが皇子に尋ねた。
「皇子、我が軍は、後詰でありますが、
流石に配置が些か後方過ぎませんか?」
「そうですね、その通りですが、
先ほどの軍議でも言われた通り、
アルフレード皇子のご指示は、
今後のレズェエフ王国内での展開を踏まえて、
我が軍を温存しておきたいとのことです」
と皇子が柔和な表情を崩さずに答えた。
「しかし、あの堅城を落とすとなると、
困難を極めます。
更に一気呵成に進軍したため、
幾つかの砦が残っております。
後方の憂いを常に考慮しながらの
攻城戦になります。
いささかこの位置では、中途半端に思えますが」
皇子に向かって、一気呵成に捲し立てた。
「ふむ、全軍一丸となって、勝利を目指す。
それが理想でしょうが、残念ながら、
大国になればなるほど、そこに色々なしがらみが
多くなるものですよ。
ヴェンツ、その辺りの機微も学びなさい」
皇子が諭すようにヴェンツに説明をした。
ヴェンツは皇子の真意を理解したが、
感情が収まらず、地団駄を踏んでいた。
つまりアルフレードは、レズェエフ王国の
拠点となり得る砦の攻略の功績、
城を陥落させる功績を皇子に取られたくなく、
扱いに困り、中途半端な位置に皇子を配置していた。
「枝葉末節、あの城を落とせば、
砦は、自然と枯れるでしょうが、
そうそう上手く事が運ぶようでしたら、
先人たちの力戦は、余程、不甲斐ないものだったのでしょうね」
怒りが収まらないヴェンツを
よそに皇子は一人、呟いていた。
才藤さんは只今、訓練中です