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70.起死回生(九之池)

九之池さん、大ピンチ!

稲生のせいだ!

翌日から九之池は、街中を歩き回っていた。

レズェエフ王国と戦中のためか、

市場は妙な活気がある反面、

市井の人々の表情はあまり優れなかった。


九之池の耳に入る噂話も魔犬や魔物が

普段以上に人里を荒らしている噂や

街道の治安の低下を不安視する噂であった。


「ふぅふう、見当たらない。どうしよう」

稲生たちをやみくもに探す九之池だった。


ルージェナに話した後、どういう経緯か、

シリア卿の耳にそれが入り、近日中に稲生たちを

屋敷に招くよう厳命されたため、九之池は必死だった。

隷属の縛りによる戒めは、何度、受けようとも

慣れるようなものではなかった。

安易にそれをシリア卿は使うため、彼からの命令に

九之池は必死にならざるを得なかった。


捜索を開始して、1日目、2日目と何の収穫もなく、

暗澹たる気分に陥る九之池だった。

3日目も昼頃になると、九之池は、見つからない稲生に

怒りを覚え始めた。

そもそも奴が来なければ、こんなことにならなかったし、

いい歳をした大人なら、どこに宿泊しているかくらい一言、

あって然るべきだと、九之池の脳内で

都合よく稲生に常識がないということで、纏まっていた。


背中を丸めて、重い足取りでトボトボと

シリア卿の邸宅に戻る九之池だった。


「九之池さん、おーい、九之池さん。

どうしたんですか?九之池さん?」

誰かが九之池に声をかけるが、

九之池は、無反応だった。


「おい、稲生、この男は、完全に精神を

外界から遮断している。

心の精霊すら、介入を遮断しているぞ。

これはこれで、凄まじい技能だな。

どうすれば、魔術や精霊の力を借りずに

ここまでできるようになるんだ。

考えるだけでも恐ろしいほどの修練のたまものだな」

感心するアデリナだった。


「まあ、精神面だけだから、

多分、殴るか蹴るかをすれば、

戻ってくるんじゃないかな」

そして、物騒なことを言うアデリナだった。


この世の全てを遮断する九之池の異能「無の境地」が

知らず知らずのうちに発動していたようだった。


「では、ここで無駄な時間を費やすのも

馬鹿らしいので、私がやりましょう」

とアルバンは言うや否や、九之池の尻を蹴った。


「ぎゃぴぃー」

無様な奇声をあげる九之池。

そして、尻を擦りながら、

稲生を視界に捉えると、嬉しそうに

「あれっ、稲生さんじゃないですか。

ほっ、ささっ、これからシリア卿の邸宅に

向かいましょう」

先ほど、心に渦巻いていた稲生への恨み言は、

綺麗さっぱり消えているようだった。

稲生を見つけ、己への惨劇が回避できたため、

九之池はご機嫌になったからであった。


稲生は、了解し、実の無い当たり障りない話題で

シリア邸に到着するまでの時間の間をもたせた。

「ああっー虫唾が走る。

おい、アルバン、あいつらのあの会話を止めろ。

気持ち悪い」

と言って彼らの後方で頭を掻きむしるアデリナだった。


「あれはあれで、稲生様の一種の技術でしょう。

学ぶべきところはあるかと。

九之池様も楽しそうに応じているようです」

と言って、稲生を見つめるアルバンだった。


完全に二人の関係は、主客転倒しているようであった。

アルバンは、稲生のああいった対人折衝の能力を

召喚者としての能力以上に評価していた。

そして、前回、判断しきれなかった九之池の能力を

見極めようと一挙手一投足に注目していた。


そんなアルバンにアデリナが珍しく助言を与えた。

「おい、見誤るなよ。奴の本質は、今の奴ではない。

奴の内に籠る獣のような化け物に気を付けるんだな」

突然、冷たい声でぽそりと言ったアデリナに

アルバンは驚いたが助言のお礼を伝えた。


九之池は、シリア邸の客間に稲生たちを通すと、

何事かと慌てふためく、使用人の一人にシリア卿への伝言を言った。


「あの黒豚め、いったいどういうつもだ」

使用人を前に珍しく激怒するシリア卿。

そして、その普段からは想像もできない形相に

恐れおののく使用人だった。


シリア卿は、一先ず、恐れ慄く使用人に

客人たちへ飲み物と軽い軽食を出すように伝えて、客間に急いだ。


客間に到着すると、シリア卿は、愕然とした。

何故?なぜに招待した側の人間がふんぞり返って、

楽しそうに談笑しているのだ。

まるで、あの豚が歓待を受けているような構図に

シリア卿は、客がいるにも関わらず、

真剣に悩んでしまった。

あの男を本当に貴族に叙していいのかと。

シリア卿にしては、激レアな失態であっただろう。

本来、挨拶を先にすべきであったのに茫然自失に陥り、

思考が停止していた。


如才なく稲生がシリア卿に挨拶をした。

いままでいくつもの渉外を行ってきたシリア卿が

イニシアティブを取られたことを悟った。

そして、稲生という男を警戒した。

この男と会話をするには、九之池というお荷物が

大きなハンデになっていた。

そして、色々な思いが渦巻き、最後にドヤ顔で

シリア卿を見やり、一向に自分を

紹介しようとしない九之池に我慢の限界を迎えてしまった。


そして、客前であったにも関わらず、九之池を罵倒した。

「きっ貴様、一体なんのつもりだ!

何をそこに踏ん反り返っている。

おい、客人に飲み物くらい出す知恵は湧かないのか。

ああっ、どうなんだ、この屋敷の主に

恥をかかせるつもりかっ!」


その言葉を聞くと、九之池は、

大いに驚き飛び上がるように床に土下座をした。

その刹那の行動、迷いのない態度に稲生たちは、

大いに困惑し、客間を微妙な雰囲気が支配した。

シリア卿の表情は慇懃そのものだったが、

心の内は、大いに乱れていた。

流石に客人の前で土下座をすると予想していなかった。

この場を上手く収めるための一歩が踏み出せないでいた。


「まあまあ、シリア卿、ここは穏便に。

私たちは、シリア卿が顔を出すまでの間、

しばしの歓談を楽しんいましたが、

どうも話題に集中し過ぎてしまったようで、

逆にお屋敷の主に恥をかかせてしまったようですね」

とにこやかに答えて、土下座をして

ぶるぶるふるえる九之池を立たせる稲生だった。 


「こちらこそ、お恥ずかしいところを

お見せしてしまって、申し訳ありません。

飲み物を用意させますので、しばしのお待ちを」

と何とか答えるシリア卿だった。



ほっと一息も碌なことない

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