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65.昇格(九之池)

ありえない!

 数日後、丘の上に陣取るベルトゥル公国軍の兵たちは、

遠方にベルトゥル公国軍の巨大な旗印を見た。


 兵たちのざわめきは、次第に歓喜の声にかわり、丘を包んだ。

「助かった。九之池様のお陰だ」

「援軍だー、来たぞ。九之池様の言った通りだ」

「九之池様、万歳、万歳、万歳―」


木霊する歓喜の声は、本陣にも届いていた。

生き永らえそうな状況の到来に表情を

綻ばす将軍たちの中で一人、グルムール侯爵だけが

不快な表情をしていた。


ヘーグマンは、歓喜の声を聞きながら、

「ふむ、九之池殿は英雄に祭り上げられましたな。

実力と人品見識は追ってつければ、

よいでしょうが、はたして」

晴天の空を見上げながら、呟いていた。


いくつかの事が運良く重なり、九之池はこの戦場で

最も評価される男となっていた。

ベルトゥル公国初の召喚者としての立場も後押しして、

英雄として祭り上げられてしまった。


体調もそこそこに回復した九之池は、

響き渡るこれらの声に混乱した。

まったく預かり知らぬことで、自分が褒め称えられている。

一体、何のことか分からず、どう捉えていいのか困惑していた。


「九之池さん、凄いですよ。

各拠点で九之池さんの名前が唱和されていますよ。

表に出て、愛用の棍棒を天にかざしてください。

士気が更に上がること間違いなしです」

興奮するルージェナがへたり込む九之池の腕を取り、

ずりずりと兵士たちの見えるところに引きずり出した。


「ああっー九之池様だー」

一人の兵士が指を指して、叫ぶと、

次第に歓声は収まり、九之池の発言を待った。


なっ、これ、どういうこと。

あり得ない、あり得ない、あり得ない。

多くの兵から見つめられて、注目された九之池は、

一瞬で頭に血がのぼってしまい、ふらふらとなり、

倒れないように棍棒で支えた。

そして、その傍らでルージェナが

九之池に密着して、支えた。


ルージェナの行動に対して、九之池は礼を言った。

「ありがとう」


「ありがとう?」

九之池の発言の聞こえた一部の兵士が

オウム返しにその言葉を呟いた。

一体、どういう意味だろうと思いながら。


「九之池さん、支えていますので、

そのまま、右腕を上に思いっきり上げてください。

そうすれば、少し楽になります」

ルージェナが耳元に小声で囁いた。


密着するルージェナから、久々に感じる匂い、

身体に興奮し、更に頭に血がのぼる九之池は、

最早、まともな判断ができず、言われるままに

右腕を振り上げた。


晴天の空に高々と掲げられた棍棒、

血のりでどす黒い棍棒が青空に異彩を放った。


先ほどの言葉で始まったざわめきが

その瞬間、止まった。

そして、集まる兵士たちも同様に一様に

各々の武器を天に向けて、かざした。

そして、雄叫びが響き渡った。


なんて謙虚な人だろう、暗闇のなか最前線に立ち、

魔物を押し返し、生き残るための策を兵士に伝え、

己の功績を誇らず、この地で一緒に戦う我々、

兵士に感謝の意を示すとはと兵士たちは、

勝手な解釈で盛り上がっていた。

その気分は各拠点に伝搬し、九之池の立ち位置は、

完全に定まってしまった。


妖精もどきは、遠方に見えるベルトゥル公国軍の

新手を確認し、人もどきに話かけた。

「さてと、そろそろ、ここの戦場も終わりだね。

バルザースとレズェエフの国境線での戦でも見に行こうかな」


「ふむ、それもまた、一興。

レズェエフが撤退を始めたら、戒めを解けばいいんだな。

だが、それに何の意味がある。

統制のないこいつらでは、いたずらに

殺されるだけだろう。

丘の上か新手に最後の突撃をするのが

効果的なのではないかな。

それとも腹案があるのか?どうなのだ」

相変わらず長々とぶつぶつ呟く人もどきだった。


「あーもう、めんどい。

ばらばら好き勝手させてあげなよ。

そしたら、ベルトゥル公国各地に広がって、

村を襲うでしょ。

この数の大半が散乱したら、

対処しきれずにこの国は政情不安に陥って、

治安が荒れるでしょ。

そしたら、色々と面白くなるよぉ。

憎悪も集まるしねぇ」

にやにやしながら、今後を語る妖精もどき。

そして、レズェエフ王国軍より撤退の声が聞こえ始めた。


その様子を見ながら、楽しそうに

人もどきの周りをホバーリングしながら、

にやにやする妖精もどき。

「まだまだ、これからだぉー。

これからもっともっと世界に戦乱が広がるのさ」


英雄の誕生に見合えた!九之池さん、英雄やでー

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