20.わいわいがやがや
盛り上がる昔話
「すみません、お約束の具体的な時間を
決めていませんでしたので、
8刻くらいを考えていました」
と稲生は、答える。
「あほう、いかなる状況でも女性を
優先するのが当たり前であろう。
一体、どういう教育を受けてきたのだ、おぬしは!
それと、リンは、説教だ」
先ほどの上品な物言いとは、打って変わって、
金切り声で、叱責するメリアム。
「はい、メリアムさん。
後ほど、ノルドさんと
一緒にお店に伺います」
リンは、再会がよほど、うれしいのか、
ニコニコと答えた。
突然、ワイルドが先程からの雰囲気からは
想像もつかないほどの慇懃さで、メリアムに声をかけた。
「お久しぶりです、先生。
あの説は、老公と先生に
大変お世話になりました。
改めて、御礼を申し上げます。
私にできることがございましたら、
何なりとお申し付けください」
「ふん、何事にも鈍重であった貴様が
そこまでになれたのは、ひとえに我らの助言も
あったが、貴様の努力の結果であろうよ。
どうしてもというなら、一つだけ頼もう。
獣を殺せ。それだけだ。
貴様の血のにじむような努力に比べれば、
大したことあるまいて」
メリアムは、不機嫌そうに答えた。
「はっ、謹んで拝命いたします。
このワイルド、命に代えましても
必ずや獣を討ち果たします」
稲生は、ワイルドの言葉に圧倒的な迫力と
自信を感じた。
そして、将軍とは、かくも強烈な存在でると
始めて知った
ワイルドの圧倒的な迫力により、
誰しもが押し黙っているなか、
ノーブルが少し離れたところから、
遠慮がちに稲生へ声をかけてきた。
「稲生様、梱包が完了いたしました」
「そうですか、それでは、次にメリアムさんの
薬屋に移動しますか」
と稲生。
「ノル爺も一緒に行きますよね。」
リンがノル爺の手を取り、半ば強制のように声をかけた。
「いや、わしは、酒を呑んで、寝るかのおぅ」
ノルドは、軽くあくびをしながら、答えた。
「ええぃ!めんどくさい、エルフの秘蔵の酒を
振舞うから、爺、おまえも一緒に来い」
とメリアム。
ここ数日で随分とにぎやかになったなー
と思う稲生であった。
前世界では、一人で過ごすことを好んだ稲生だが、
この世界にいる限り、こんな生活が続くことも
悪くないと思った。
稲生さん、蚊帳の外!




