57.寝る(才籐)
才藤さん、幸せそうに寝てるよ!
ビルギットは、いくつかの小瓶を取り出して、
なかの液体を才籐の口に含ませた。
「血の生成を促進するものだ。
我慢して飲み込め。
これは魔術的な要素でなく、
自然界の色々なものを煎じたものだ。
材料はいずれ、見せてやろう」
とにやにやとしながら、才籐の顔を
覗き込むビルギットだった。
才籐はそんなビルギットの表情を見て、
ほっとしたため、素直に飲みきり、瞼を閉じた。
才籐の様子を見て、ビルギットが
剣呑な目つきでルナリオンを睨んだ。
「これで、老公の遺品である両手、両足、頭、胴体、
6つの義部は全て使い切ったのだな。
そのうち意識を保てた者が3名、
そのうち1人は行方不明。
残りの3人は義部に取り込まれて、この世を彷徨っている」
ビルギットは一旦、言葉を切った。
ルナリオンの目は虚空を捉え、
虚ろな表情となっていた。
普段、明朗闊達なルナリオンからは、
想像できないような表情であった。
抑揚のない虚ろな声が室内に響く。
「召喚者様の遺品は、アンカシオン教が
責任をもって管理します。
それが老公の遺品であれば尚のこと。
義手、義足、義頭、義胴、6つにして1つ、
お互いを求めて魅かれ合う運命にある」
「ふん、相変わらず、狂っているなルナリオンよ。
6つを手にし、果たして、その者の意思が
残っているのか疑問に思わないのか」
ビルギットが警鐘を鳴らす。
「それでも老公の奇跡、望んだ終わりを眺めたいのです。
それはあなたも同じでしょう」
そう言うと、ルナリオンの表情は普段のものに戻っていた。
「ふん、そこまで酔狂な心持にはなれんよ。
さてと、戻るかな。
支払いは滞りなく頼むな、じゃっ」
と伝えて、ビルギットも部屋を後にした。
「ルナリオン様、一体、今のお話は?」
とメープルが恐る恐る尋ねた。
「ああ、さっきの話か。
単純なことだよ、メープル。
お偉方は、保険が欲しかったのさ。
勿論、メープル、君が本命だけど、
最悪、何かあった場合に才藤がいれば、
召喚者の残した奇跡が間近で拝見できるじゃないか。
上手くいけば、才籐は最後の最後のピースとなり、
容易に回収できるぞ」
と嬉々と語るルナリオンであった。
メープルは自分や才籐のような者の助けとなる
この遺品にそのような意図が隠されているとは思えず、
心の中には疑問を感じていた。
「まあ、良い。
一先ず、メープル、人を呼んで、
才籐を自室に運ぶようにしなさい。
私はお偉方に報告するための書状を作る」
とメープルに指示すると部屋を後にした。
メープルは知らされていなかった事実を知り、
釈然としない気分が彼女を支配した。
そんなことを全く知らない才籐が
すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てて、寝ていた。
若干、イラっとしたメープルは、右腕を伸ばし、
才籐の頭を軽く小突いた。
これ、やばいっしょ!