56.絶叫(才籐)
才藤さん、大ピンチ
「さて、みなさん、才籐の粗末なモノの
鑑賞をやめて、儀式を本格的に始めましょう」
とルナリオンが表情を改めて、
宣誓するかのように周囲に伝えた。
「残念ですが、始めましょう」
と皇子が言うと、室内の空気の質が変貌した。
凍てつくような冷たさが室内に充満し、
大気に触れる皮膚が切り裂かれるような幻想に
囚われそうだった。
才籐の逸物は、縮こまり、下半身は震えていた。
皇子が刀を鞘から抜くと、
にぶい光が才籐の目に映った。
そして、次の瞬間、刀の振り下ろされた残像が
目に残った。
才籐の左脚から鮮血が迸る。
「グギャぁぁー」
咥えられた木を噛み砕くかのような
凄まじい声が室内に響き渡った。
血は、止め止めもなく噴き出し、
周囲を血の色で染めた。
メープルとルナリオンが才籐の側で
才籐に向けて、祈りを捧げている。
ビルギットは、才籐の血で汚れることも
厭わず、左脚を模した金属を
今しがた斬られた部分に宛がった。
めきめきと木の摺り切られる音が
才籐の口元から聞こえる。
左脚を模した金属が血に染まりながら、
才籐を侵食していく。
徐々に才籐の身体を蝕んでいく。
才籐は口から泡を噴いていた。
常人なら、気絶する痛みであったが、
二人の司祭の祈りにより、気絶すること叶わず、
痛みに苦しんでいた。
ルナリオンの祈りは、才籐の意識が
絶たれることを拒むためのものであった。
メープルの祈りは、才籐が失血により
死なないためのものであった。
二人の声は、刺々しく、祈りと言うより、
呪いを連想させた。
「ふひぃう、ふへうぅ、へぐう」
言葉にならない叫びが才籐の口より発せられる。
「才籐、このままでは、下半身全てが
鉄となり果てる。無論、アレもな」
とビルギットが才籐の耳元で囁いた。
才籐は、繋ぎ止められている意識を
下半身に向けると、銀色の光沢が
じわりじわりと臀部から右脚の方に
向かって侵食していることがわかった。
「むぎゅーぅぅぅ」
と臆面もなく泣きわめき、鼻水を垂らした。
そして、必死の抵抗を試みた。
まだまだ、用途のあるアレを必死に守るために。
「さてと頃合いだな」
ビルギットが呟くと、魔晶を幾つか
才籐の左脚の周りに設置し、魔術を唱えた。
瞬間、魔晶は赤黒く濁り、砕けた。
無言で、次の魔晶を置く。
それを何度も繰り返すビルギット。
幾度と繰り返すビルギットの行為、
しかし、才籐の左脚には何の変化もないように見えた。
「才籐、気合を入れろ。浸食は止まっている。
あとは才籐、お前の気合次第だ」
とビルギットが囁き、
「最後にとっておきを使うからな、
借金に足しておくぞ」
続けて、ビルギットは呟き、
3つの魔核を取り出して、配置した。
才籐は、3つの魔核の異常な輝きと大きさに
恐怖した。
ビルギットの囁きに若干の理性が戻り、
その支払いに恐怖していた。
永遠の借金地獄に落ちたことを悟った才籐だった。
「むぐぅーむぎゅう、ぐぎゃぉ
(無理無理、払えない。助けて。イタイイタイ)」
魔核はゆっくりと赤黒く染まっていった。
それに比例して、侵食していた銀色の金属は、
才籐の左脚の接合部までゆっくりと戻っていった。
「よし、メープル。回復の祈りを謳うぞ」
とルナリオンは才籐の様子を見て、
二つの優しい声が才籐を包んだ。
皇子は才籐の様子を見て、山場は超えたと判断し、
刀を鞘に納めた。
皇子は、最悪、失敗に終わりそうな時、
侵食部から切断するために刀を構えていた。
「流石は才籐さんですね。
その足を自在に動かせるようになった時、
立ち合いが更に楽しいものになりそうですね」
と言いながら、口に咥えさせた木を取り外した。
木はぼろぼろになっていた。
そして、軽く額にキスをして、では私はこれでと伝え、
皇子は部屋を出て行った。
「ふいふい、へいおう(皇子、ありがとう)」
と何とか気持ちを伝えようと才籐が声を出した。
額へのキスに関しては、深く考えることを
才籐の心が拒否していた。
まあ、何とかなったようなならないような