51.恫喝(九之池)
へろへろー
二陣への攻撃命令が出ると、
九之池はのろのろと動き出した。
彼が率いる30名の兵士は今のところ、
戦死者は出ていなかった。
そして、なるべく消費の低い補助魔術を
中心に使うように九之池が指示を出していたため、
ルージェナの魔力もいまだに十分であった。
九之池を含む二陣が坂を下り、
一陣に合流をしようとした瞬間、一陣に大混乱が生じた。
「ナグヌート子爵、ベルモント男爵、討ち死に」
「ナグヌート子爵、ベルモント男爵が
小鬼に喰われているぞー」
「もうだめだ、逃げろ」
二陣も混乱に巻きこまれてしまい、
まともに応戦できなくなっていた。
レズェエフ王国軍より、この戦ではじめて矢と魔術が
ベルトゥル公国軍に降り注いだ。
何の準備もない一陣の兵士たちは、
パタパタと倒れていった。
我先に坂を駆け上がって、逃げ出す
ベルトゥル公国軍の兵士たちに魔物が
容赦なく襲いかかった。
「みんな逃げるよ。
ルージェナ、補助魔術をありったけ展開して。
よろっ」
と言って、ふぅーふぅー息が上がりながらも
坂を駆け上がる九之池たちだった。
後方に迫る敵軍に始めて、人の姿を目撃した九之池。
第一陣はほぼ壊滅だった。
何とか本陣の援軍により盛り返したが、大敗だった。
その夜、九之池は本陣に召喚されていた。
「さて、九之池君、君に一つ、重要な任務を与える。
光栄なことと思いたまえ」
この軍を統括するグルムール侯爵が尊大な態度で言った。
九之池は疲れ切っていたため、曖昧な表情で侯爵を見た。
「ふむ、まともな礼儀も知らぬとはな。
まあ、いい、明日、この包囲網を掻い潜り、
公都に援軍を求めて貰う。
これは命令だ。反論は認めない。
いいな、少しは役に立て。兵員は15名を選別しろ。
あの魔術師は、残して魔術師団に組み込む。以上」
残るも地獄、進も地獄。
死が早まるかどうかだけのこの戦場に
身を置くことに絶望しかなかった。
森林に囲まれたこの地は本来、
心を癒す場所のはずであったが、
今は、死臭しかしなかった。
「いえ、無理です。
死にたくありませんし、無理です。
無駄です」
と九之池は叫んだ。
「貴様、ならこの状況を打破するに
どうするというのだ?
周囲を訳の分からない軍に囲まれ、
どうすることもできないのだぞ。
キサマも召喚されㇱ者だろうが。
なんぞ掻い潜る技をもっているだろう。ヤレ」
と狂ったように侯爵が喚いた。
どの将軍も平静を失っている。
早晩、迫りくる死への恐怖が見て取れた。
「もしヤらないなラば、貴様らは全員、
軍律に照らして、相応の罰をうケてもらう」
と副将らしき男が恫喝した。
「ぐむぅ、ぐむぐむ、受けます受けます」
脅しと恫喝に屈服する九之池だった。
ふらふらと本陣を後にして、死臭のする丘を歩き、
ルージェナや部下の元に向かった。
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