50.戦況にため息(九之池)
困った!
九之池が査問を受けている途中、
斥候だろうか一人の兵士が会場に転がり込んできた。
そして、息をつく間もなく、
「レズェエフ王国軍が坂道を駆け上がってきます。
その数、数千です」
一人の将軍が即座に指示を飛ばす。
「バルモフ伯爵、ナグヌート子爵、
ベルモント男爵、ドルチェグスト男爵、
本軍の魔術師団、弓兵を付ける故、敵軍を殲滅しろ。
そこにいる豚に戦の作法を教えてやれ」
指示を受けた面々は、急ぎ、その場を去り、応戦に向かった。
「ふん、豚が調子にのるなよ。
キサマは、我が軍の輝かしい戦果でも聞いていろ」
その後、九之池は、散々罵声を浴びて、解放された。
本格的な戦闘の前に疲れ果ててしまった九之池だった。
先陣を承ったバルモフ伯爵、ナグヌート子爵、
ベルモント男爵、ドルチェグスト男爵の4将は、
見下ろす敵軍を見て唖然とした。
坂を上ってくるのは、人でなく、魔犬や小鬼の類であった。
弓兵と魔術師団により、遠距離からの攻撃に
抵抗するすべがないのか坂の途中でばたばたと打ち取られていた。
「異常な光景ではあるが、掃射が済んだら、突撃開始だ」
4将の中で最も爵位の高いバルモフ伯爵が言うと、
他の将は了解の旨を示し、頷いた。
初戦は圧勝であった。
数千の魔犬や小鬼の死骸が坂の下には転がっていた。
魔物がレズェエフ王国軍に組み込まれている不気味さに
どの人間も一抹の不安を覚えたが、圧勝の雰囲気から、
そのことに触れる者はほとんどいなかった。
2日目が過ぎた。3日目が過ぎた。
4日目が過ぎた。連日、魔物が坂を駆け上がってくる。
魔術師たちの魔力の回復が次第に遅れはじめ、
弓の在庫が圧迫され始め、直接戦闘の時間が
少しずつ伸び始めていた。
それに伴い、死傷者の数が少しづつ増加していった。
丘の周りは死臭が蔓延した。
戦場は戦闘が開始される前に既に死体が転がっていた。
軍を差配する将軍は、援軍の要請を公都に送るも
レズェエフ王国軍の包囲を掻い潜ることが
出来ていないようだった。
7日目の朝が訪れ、そして、同じように
魔物が坂を上がってきた。
兵士の多くはこの異常な状況に心が摩耗していたが、
応戦しなければ、死ぬため、身体を動かしていた。
第二陣に配された九之池は、眼下に広がる魔物の群れを
見ながら、人を殺さずに済むことに感謝すべきかどうか
悩みながら、ため息をついた。
まだまだ、余裕の九之池さん!