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46.ご機嫌(稲生)

稲生さん、とんでもないことを!

稲生は、朝の陽ざしに誘われて、目が覚めた。

そこはキリア王朝の商館とは違う建物の一室であった。


掛けられていた布をあげると、

稲生は全裸であったことを思い出した。

そして、隣には、全裸の女性がすうすうと、

幸せそうな顔で寝息を立てていた。


銀色のような光沢が陽光を反射し、

稲生の目に入った。稲生は眩しくて、目を閉じた。


 すると、稲生は胸に心地よい柔らかな

感触を感じ、唇と唇が重なり合うのを感じた。

「んっんんっ」と色っぽい声が聞こえ、

稲生はゆっくりを目を開け、女性の背中に手を回した。


「おはようございます、稲生様。

ご気分はいかがでしょうか?」

と優しそうな表情で女性が声をかけた。


「うっうん、大丈夫です」

と言って、頭をかいた。


「随分と呑んでいましたが、稲生様は

精力というのですか、体力がおありですね。

殿方は、お酒を呑むと駄目だと、

聞いておりましたが」

と女性が恥ずかしそうに言った。


「まっまあ、人それぞれですよ。人それぞれ。

それより、待ち合わせの約束がどうも

無駄になってしましましたね」


 女性は、少々、お時間を下さいと、

祈りの時間ですと言って、全裸のまま、祈りを捧げた。


「稲生様、服を着てお待ちして

頂いても良かったのですが」

と困ったように言うと、


 稲生は、そんな女性の言葉を遮って、

朝から4回戦に突入した。

この男、九之池と違った意味で屑であった。


 晴天のなか、稲生とメープルは、

腕を組んで街中を歩いていた。


 心底、嬉しそうなメープルであったが、

稲生は、生気のない疲れた表情であった。


 一日を買い物や食事をして過ごし、銀色の蝶を

模した髪飾りをプレゼントした。


 メープルの幸せそうな表情と名残惜しそうな表情に

稲生は満足して、商館に戻った。


 商館では誰ともすれ違わず、部屋に到着した。

11刻を過ぎていたためにベッドに転がり込むと

稲生は睡魔に襲われ、ゆっくりと目を閉じた。


 真っ暗闇の中、ひんやりとした感覚を

首筋に稲生は感じた。

 そして、それが何か理解できるため、

全身が強張っていた。稲生は相手の言葉を待った。


「稲生様、あまり、羽目を外し過ぎるのは困ります。

遊びたければ、後腐れの無きようにお願いします」


 稲生は目を開けて、脅迫者が誰であるかを確認した。


「アルバンか、一体何のつもりですか?

流石にこれは看過できかねますよ」

と稲生が額に汗を流しながら、言った。


 言葉を間違えれば、死に至る恐れがある。

そのため、稲生の脳はフル回転していた。


「昨晩、随分と司祭とお楽しみのようでしたね。

あまり私を困らせないで頂きたのですよ。

リン様を甘く見ない方がよろしいかと。

私も庇い立てできかねます」

と言ってため息とついた。


「しかし、これはちょっとお願いするには

少し物騒すぎないかなぁ、アルバン、

そう思わないですか?」

と稲生は諭すようにアルバンに言った。


「事の重大さを理解してください。

あのお方は、あなたとお会いする前から

紺の魔術師連盟の第3席だったのですよ。

そして、幼き頃にあの老公の薫陶を

受けた麒麟児です。

キリアとバルザースの距離など秘密を

隠すに意味をなしません。

あなたを庇って、放逐されるなんて

まっぴらごめんなんですよ」

と暗闇で、二つの目を光らせて、稲生に伝えた。


「わっわかりましたから、アルバン。

落ち着てください。なるべく善処しますので」

と稲生はなだめるようにアルバンに言った。


「稲生様、私は貴族から没落して、

キリアまで流れてきました。

運よくリン様に拾われましたが、

それまでの泥水をすするような生活は

もう、嫌なんですよ。

リン様に仕えていれば、執事として、

ささやかながらも家庭を持つことも

できるかもしれません。

あわよくば、戦場で武功を挙げて、

一代貴族に列せられるかもしれません。

いいですか、稲生様、司祭の件は、

起きてしまったことですから、

目を瞑りますが、アデリナ様は絶対に

駄目です。

いいですね、自重してください」


「わっわかった。アルバン。

君が僕を節操なしように

思うのは心外だが、了解した。

自重するよ」

と稲生は、アルバンに反省の弁を伝えた。


「稲生様、私の左目は、リン様の魔術が施されています。

音を伝えることは出来ませんが、この左目に映るものは、

リン様の持つ水晶に全て浮き上がります。

リン様というより、紺の魔術連盟はこういったことを

得意とするところです。お気をつけください」

と言うと、短剣をしまうと、深く詫びて、部屋から闇に消えた。


 稲生はアルバンの話に驚いた。執事に魔術を

付与しているとは全く考えが及ばなかったからであった。

そして、そのようなことを相談もなしに

していることに驚いた。

 寝ている間に自分も何か魔術が

付与されたのではと、不安に駆られる稲生だった。


やらかしてるよこの人!


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