41.力説(才籐)
めっちゃ出入りがあるなー
「やあ、才藤さん」
何故かご機嫌の才籐の表情に驚きつつも
皇子が挨拶をした。
「おう、皇子か。本当に今日は客が多いな。
ところでだ、皇子、今、そこの通路で
黒髪の男とすれ違ったろう。どんな表情だった?」
と才籐がにやにやしながら、尋ねた。
「あの美しい二人の女性に囲まれていた方ですね。
足取り覚束なく、真っ青でしたが。
あのように美しい笑顔を振りまく女性に
囲まれて何が不安なのでしょうね。
羨ましい限りです」
とため息をついた。
「ふん、皇子だって、その気になれば、
いくらでもゲットできるだろうよ」
と悪態をつく才籐。
「どうでしょうね、ビルギットさんのように
聡明で美しい方はなかなか見つかりません。
恋仲の才籐さんが羨ましいですよ。
近づくのは武骨な男ばかりです」
やれやれとため息とついた。
「ったく、まあ、いい。
いずれ、話して貰うさ。
それより今日はどうしてここに?」
「戦後処理が落ち着いた訳ではありませんが、
少し余裕ができましたので、治療と見舞いを
兼ねまして、お伺いしました。
才籐さんがいなければ、
私も死んでいたかもしれませんし、恩人ですから」
と真摯な眼差しで才籐を見つめる皇子であった。
「おいおい、俺にその趣味はないぞ。
どうなりそうなんだ?ベルトゥル公国での
レズェエフとの話し合いは?」
「いまだに纏まらず。
バルザースの使節団が席を蹴ったという噂まで出ています。
レズェエフは、挑発して、我々の出征を
促している可能性があります。
しかし、どうも理由がわかりません。
バルザースも将兵を損耗しましたが、
レズェエフもそれは同じです。
ここで再戦となると、軍を動かすだけでも
かなり大変なはず。
どうもわかりませんね」
と皇子が小首を傾げていた。
「となると、何か理由があるってことか。
そうまでして戦をしたいとなると、勝算があるか?
戦の勝ち負け以外の何か」
と才籐は妖精もどきを思い出しながら、皇子に言った。
「それも考えられますね。
あの奇怪な妖精、確かに魔術絡みか
召喚者絡みもあり得ます」
と皇子は、言って、愛刀を鞘から抜いた。
ビルギットの短剣の輝きと比べて、陽光の反射は鈍かった。
しかし、刃紋の模様が美しく、才籐は魅入られように見つめていた。
「さてと、肩の調子も戻ってきましたで、
ビルギットさんから伺った義足の件が済むまで、
腐った部分が侵食しないように取り除きましょう。
戻し切りと以前の世界では言っていました」
と皇子は言うと、何かを唱えると、才籐をベッドから
患部を切りやすい位置に移動させた。
才籐は刃紋に魅入っているのか、全く動かずに
されるがままであった。
皇子は刀をかまえると、深呼吸をして、
すさまじい集中力を発揮した。
部屋中が凍てつく空気で覆われたようになり、
才籐は鳥肌が立っていた。
空気が戻った。
先ほどの冷気はいつの間にか雲散霧消していた。
自由の戻った才籐は、自分の左脚を恐る恐る見た。
そこには、どす黒くなっていた箇所が
綺麗になくなっていた。
そして、床には、残骸が残っていた。
皇子は、持参した綺麗な布を
才籐の患部へ丁寧に巻き始めた。
「おいおい、これって、細胞を傷つけずに
切るってやつじゃないか?
切った瞬間も分からなかったが、
普通は野菜とかにやるやつだりょううよ。
失敗してたら、血が噴き出るやつだりょう」
と才籐が捲し立てた。
才籐の知識では、この技術は達人級の剣術と
真に切れ味の鋭い剣があってこそ、
可能となる技であった。
そして、それは決して人にする技ではなかった。
「才籐の世界でもありましたか。
剣を極める先は、世界が違えども
行き着く先はどうやら似るものらしいですね」
と皇子は満足気に話した。
「ちがーう、人に向ける技じゃないっ。
それは、己の鍛錬の末を披露するときにやる
パフォーマンス的なあれだ!」
と全力で突っ込みを入れる才籐だった。
皇子は小首を傾げなら、才籐に笑いかけた。
「ふう、もういいや、取り敢えず、
礼は言っておく。サンキューな」
と才籐は言い、
「ちょっと、さっきの男、稲生っていうんだけど、
様子を見てきてくれないか?」
と皇子に頼んだ。
「ほほぅ、才籐さんが頼み事とは、珍しい。
命の危険があれば、助ければいいのでしょう」
と言って、了解の旨を伝えた。
「まあ、頼む。稲生は少しばかり、
痛い目にあうべきだが、死ぬ程のことでは無からなぁ。
頼まれてくれや」
はいはいと言って、皇子は鍛練場に向かった。
才籐さん、ちびっているかも