38.死の恐怖(才籐)
才藤さん、狙われるっ!
翌朝、清浄を旨とするアンカシオン教の
一室で嬌声が上がっていた。
「はぁはぁ、うぐっぅぅぅー」
才籐は、呻き声を漏らしていた。
目の前で豊満な胸が不規則に揺れていた。
才籐の上にのしかかっている女性は
激しく才籐を責め上げた。
才籐の鼠径部付近にその女性は跨り、
才籐が動けないようにがっちりと
両足で締め上げていた。
才籐の目の前で激しく動く女性。
才籐も身体を必死に動かしていた。
「うっ、はぁはぁ」
才籐は、呻き声以外を発することがなかった。
首を両手で絞めつけられて、鬼女のような形相で
才籐を睨みつていた。
「なぜ、稲生様が来られているなら、
連絡を直ぐにしないのですかっ。
それに黒エルフ?一体、その稲生様に
纏わりつく悪い虫は何ですかっ。
答えなさい才籐、黙っているなら、容赦しませんよ」
メープルは、才籐の首を掴み、激しく前後に振っていた。
「むぐっむぐっー」
言葉の出せない才籐は死の恐怖を感じ、
必死に首からメープルの手を引き剥がそうとした。
それが不可能とわかり、最後の手段を才籐は実行した。
失敗すれば、それはすなわち死を意味していた。
メープルの胸を両手で鷲掴みにして、激しく揉んだ。
「きゃ、きゃー」
とメープルが悲鳴を上げた。
そして、才籐は死を免れた。
「ゴホッゴホッ」
才籐は、呼吸を落ち着かせて、
逃げ出したメープルに怒鳴りつけた。
「知るかそんなこと!ゴホッ殺す気か!
今日も稲生は来るだろから、
その時に自分で聞いてくれっ、
ゴホッゴホッ」
咳き込みながら、怒鳴りつける才籐であった。
どうやら、メープルは今日も稲生が
来るということで、落ち着きを取り戻したようだった。
そして、メープルが持つ本来の件に関して、
才籐に説明を始めた。
「少々、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。
先ほどの破廉恥な行動は、今回、特別に不問とします。
のでので、お互いに今のことについては、
忘れることにしましょう。
これから、才籐、あなたの将来について、
幾つかの案をお伝えします」
と澄ました顔で言った。
才籐はそんなメープルを見て、
「少々のことかよ」
と思ったが、そんなことは
おくびにも出さずに神妙な顔をして、
メープルの次の言葉を待った。
「才籐、あなたにいくつかの選択を我々、
アンカシオン教はご提示します。
どれかを選んでくださると助かります。
このままの状態で傷の回復を待つ。
この場合、帝国からの俸給はなくなります。
そして、恐らくですが、アグーチン導師辺りが
あなたの身柄を要求するでしょう。
次ですが、あなたの意思です。
何か案があれば、お伝えください。
最後ですが、義足を準備します。
慣れれば、何とか巡回訪問等が
出来るようになるでしょう。
才籐、あなたとは、5年以上の付き合いになります。
その間、あなたは、この国の市井の人々のために
活動しました。
私はその活動を好ましく思っています。
そのため、あなたの選択を私は尊重します。
あなたの選択に幸あれ」
と言うと、才籐に向かって、祈りをメープルは捧げた。
祈りを終えると、メープルは無言で
頭を深々と下げて、退室した。
「くそっ、ったく稲生絡みさえなければ、
まともなのにな」
と才籐は、独り言を呟いた。
先ほどのメープルの話を思い返して、悩む才籐だった。
うーんうーん、どれを選択しても辛いのう