34.危機回避(九之池)
九之池さん、しっかりしてー
「抜けよ、団長さんよ」
と後にひけぬ最後の一言を
若い冒険者たちは放った。
相手は殺気を帯びていた。
九之池は口をぱくぱくさせて、
何かを言っていたが、声が小さく、
全く相手に伝わらなかった。
「貴様ら、何をしているんだ」
鋭い声が暗闇に響いた。
「あっ、グレッグ副団長」
と3人はグレッグが視界に入ると、一旦、剣を下げた。
「おまえら、どういうつもりだっ!
団長、いや雇い主に剣を向けるとは!
場合によっては、ライセンス証を失うぞ。
分かっているのか!さっさと頭を下げて、行けっ」
とグレッグがまくし立てた。
グレッグにどやされて、3人は不承不承ながら、
頭を下げて、各々、夜営場所に戻った。
「団長、すみません。収めて頂けませんか?
俺からきっちりと言っておきますので」
とグレッグも頭を下げた。
「まっまあ、いいけど、二度目はないよ」
とグレッグの迫力に押されて、おどおどと答えた。
「ええ、二度目はありませんし、
二度と組むこともないでしょうから、
よろしくお願いします」
とグレッグが能面のような表情で改めて、頭を下げた。
九之池はグレッグの物言いに少し引っ掛かったが、
騒動が収まったため、助かったと伝えて、
戻るように言った。
九之池にとってのちょっとしたこの騒動後、
公都へ向かう旅は、つつがなく終わりを迎えた。
ルージェナが雇った冒険者に挨拶がてら、
報酬の件について、再度、説明をしていた。
時節、ほのぼのとした笑い声が聞こえるが、
九之池にとっては不愉快な雑音でしかなかった。
ルージェナが冒険者たちと一通り挨拶を済ませると、
シリア邸に向かった。
ヘーグマンは、一足先に戻り、
シリア卿にこの件について説明を
行っているはずであった。
向かう途中、九之池とルージェナはお互いに無口だった。
シリア卿は九之池と面会するや嫌な罵声を浴びせた。
「貴様は、なぜ、こうも面倒事しか持ち込まないのだ。
その手に持った小鬼の頭部と脇にある鎧で
どう説明するつもりだ!この屑が。
いや、黒豚だったな。俺を煩わせるな」
いらいらした表情を隠す気もなく、
シリア卿は喚きちらした。
「はあ、そう言われましても」
気のない返事を返す九之池だった。
「ああっ?どう釈明するつもりだ。
大公が貴様の調査を直接お聞きになりたいと
仰せなのだぞ。この忙しいときになぁ」
九之池の態度に怒りが収まらず、
白い肌が真っ赤になっていた。
九之池は、そんなシリア卿を見て、
人はあそまで、顔色を変えられるんだと
感心していた。
「シリア様、落ち着きなさい。
小鬼の残骸は兎も角として、鎧は、
件の伯爵が囲い込んでいた冒険者の物ですぞ。
それにあれらを宮廷の魔術師たちに
鑑定をさせれば、十分に証明できますでしょうぞ」
相変わらず、落ち着いて飄々と話すヘーグマンだった。
「ふん、あの見事な切り口、どうせ、ヘーグマン、
貴様が両断したのだろうよ。それにしても忌々しい。
このようなタイミングでなければ、
俺が鑑定をしたものよ。くそっ」
「鎧は2個ありますが、1個はここに
置いておきますか?」
何気なしに九之池が発言すると、
「なにっ!2つあるのか!でかした九之池。
研究室に全部、置いておけ。
宮廷の魔術師には俺から渡しておく。
それと2点ほど、伝えておく。
大公からお呼びがかかるまで、
問題を起こさずに自由にしてよい。
もう一つは、貴様の話は分かりにくい、
要点を纏めて話せるように訓練しろ、いいな」
と言うと、もう行けばかりに右手を振って、
ドアの方を指差した。
九之池とルージェナは一礼して、部屋を後にした。
ルージェナは、終始無言であった。
上手く立ち回った感じ