30.死角なしっ(九之池)
九之池さん、もしかして、最強の一角????
「ふん、何が森の獣だ。
俺に時間さえあれば、
それ以上のものを作り上げられた。
まあよい、新たなる獣伝説の恐怖を
この地に広めてやる。
貴様は、その最初の生贄となれ」
「いやいやいや、無理無理、生贄とガチでムリっ」
と突撃を中止して、返答する九之池だった。
男が何かを唱えると、いくつもの顔を
持つ魔獣は咆哮をあげた。
そして、品定めでもするように
ゆっくりと九之池に近づいた。
「くくっ、前回の傭兵どもは、
逃げ纏うだけで、面白くもなかったが、
お前らは楽しませてもらえるのだろうな」
九之池は異形を相手にこれまで
何度も死線を超えて来た。
奇怪な魔獣に嫌悪と驚きはあるにしろ、
動揺せずに動きを探っていた。
九之池の後方から、蒼白き炎の矢が一本、
魔獣に向かって飛来した。
ギャアアー、小鬼の顔が叫び声をあげた。
小鬼の顔の1/3ほどが吹き飛んでいた。
正面で相対する九之池の前に
体液や肉片が飛散していた。
ぎゃああー、突然の惨劇に
九之池は悲鳴を上げてしまった。
そして、苦悶する魔獣に向かって、
狂ったように棍棒を振り回し突進した。
小鬼の顔に九之池の棍棒が当たり、ぽろっと脱落した。
ころころと九之池の横のほうへ転がってきた。
ひはっひはははー、九之池は泣いているのか
笑っているのか分からない顔で棍棒を
めちゃくちゃに振り回した。
「野郎ども攻撃しろっ」
とグレッグが怒鳴ると、魔術と矢が
九之池に当たらぬように魔獣を襲った。
そして、ヘーグマンを先頭に
剣、斧、槍を構えて、魔獣に向けて突撃した。
魔獣は、一旦、苦しみながらも
冒険者たちと距離を取るために後方に退き、
突進してくる冒険者たちを睨みつけた。
「犬っころの首を落とせ」
「もう弱ってるぞー」
「尻尾を叩き落せ」
冒険者たちは各々、叫びながら、魔獣に突進した。
ヘーグマンは、魔獣に目もくれず、
憎しみの表情をした男にむかっていた。
「九之池さんー」
と言う声と同時に頭から水を被った。
「ひゃああああー冷たい」
と九之池は叫び、正気を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
とルージェナが短い剣を構えながら、
九之池に声をかけた。
「あっありがとう。っても随分と冷たい水だよね。
さてと、出遅れたし。
魔獣の方はグレッグさんたちに任せて、
あの召喚者の方に向かうね」
「いえ、九之池さんが、一番槍ですよ!
それに頸を落としたのも九之池さんですよ」
とルージェナが九之池の戦功を力説する。
「それなら、ルージェナのあの炎の槍っしょ。
ルージェナ、グレッグさんたちのサポートよろ。
なるべく人が亡くならないようによろ。じゃっ」
と言って、どすどすと走って、
男と対峙するヘーグマンの方に向かった。
「ちょっ、私もそっちに。あーあーもう」
九之池には聞こえていないのか、
わき目も振らずに走る彼を見て、
同行することを諦めてグレッグたちのサポートに向かった。
いやいやいや、無理ゲー。
適当な理由をつけて、現場放棄!