25.報酬(稲生)
稲生さん!登場!
「アデリナさん、大丈夫ですか?
一応、手加減をしていますが、念のため、
冷やした方が良さそうですね」
稲生が心配そうに尋ねた。
そこら辺に落ちている石で注意を逸らし、
風の精霊の嫌うものに浸してあった魔石を
投じたのであろう。
しかもアデリアの視界外から
弧を描く軌跡で投じられていた。
いわゆるカーブという球種であった。
「こっこのペテン師が。卑怯だぞ。
もう一度だ、もう一度だ!」
とこぶを撫でながら、顔を真っ赤にして
吠えるアデリナだった。
「いえいえ、それよりも負けた方は
勝った方の言うことをきいて貰います」
とにやにやとアデリアのつま先から頭までを
舐め回すように見る稲生だった。
「なっ、そんな約束した覚えがないぞ。
いやらしい目で見るなっ」
「アデリナさん、それは負け犬の遠吠えというのです。
さて諦めて頂きます」
と言って、アデリアの左手を
とり腰に手を回す稲生だった。
「こっこの下種がぁ。触るな」
心底、嫌そうな表情で言うアデリナだった。
「ふっ、何とでも言ってください。
その言葉で余計に興奮します」
と全く意に介さない稲生だった。
「そうですね、そのご発言を奥様にそのまま、
お伝えいたします。
さぞかし、楽しいことになりそうですね、稲生様」
突然、後方から、呪いの言葉を掛けられた。
稲生は石化したように固まってしまった。
稲生の急な変化に戸惑い、アデリナも固まってしまった。
「やれやれ、仕方ありませんね。
稲生様のご冗談はあまり、冗談に取られませんから、
気を付けてください。
女性に石をぶつけるとか、おやめください。
奥様には報告いたしませんので、
石化を解いてください」
と言って、苦笑いをするアルバンだった。
「そっそうだね、アルバン。
少々、いたずらが過ぎたかな。
あまりにもアデリナの勝ち誇った表情が面白くて、
つい調子にのってしまったよ。
僕も歳を重ねて、ちょいと
悪なオヤジになったのかな」
と真剣な表情でアルバンに言った。
アルバンはその言葉を聞くと、
心の内で、けっ、奥様に飽きて、
他の女性に目が向かうエロおやじだろうが、
何がちょい悪だと毒づいていた。
アデリナも石化が解けたのか、
腰を撫でまわす稲生の手を振りほどき、
「リンには私からも伝えておく。いいな」
と語気を荒げて稲生に言った。
「まあまあ、アデリナさん。
先ほどの件は冗談です。
取り敢えず、この街が初めてなので、
色々と紹介して頂けると助かります。
まずはアンカシオン教の教会に
向かいたいのですが」
とアデリナの話を意に介さずに稲生が話をすすめた。
「だーかーらー。何故、負けた方が
言うことを聞くことになっているのだ。
っまあ、街の案内くらいなら、いいけどな」
稲生の提案を妥協点として、受け入れたのか、
一応、アデリナは、了解した。
3人は、一休みして、アンカシオン大聖堂に向かった。
ふむ、エロに目覚めてしまった稲生さん。