4.決着(才籐)
才藤さん、、、陣中で行方不明に
「ぐぅううぅ、ぐぎょあー」
最早、人の言葉でなく、獣の咆哮としか
認識できないような叫びを上げていた。
周囲では、その咆哮に委縮したのか
敵味方関係なく、その場に棒立ちになっていた。
そして、棒立ちになっている者を
敵味方関係なく無差別に殺害した。
皇子は、素早く馬を降り、眉を顰めて、
野獣と化した漆黒の男を見つめていた。
野獣の先ほど接合された腕は、
本来と逆向きに取り付いていた。
周囲に血の臭いと腐臭をまき散らしながら、
皇子に向かって突っ込んできた。
妖精もどきは、ニタニタと笑いながら、
上空から様子をうかがっていた。
「ふーむ」
と一息、そして、大きく片刃を皇子が振ると、
野獣は、高く跳躍して、皇子の遥か後方に着地した。
レズェエフ王国の軍の本陣では、
水色のローブを纏った魔術師が水晶球により、
最前線の戦況を見つめていた。
「どうやら、我が軍の召喚者は、ここまでのようです。
将軍、ご決断を」
とその魔術師が問うと、
「よかろう、どうせ死ぬなら、
バルザースの皇子を道連れにして貰おうか。
敵軍の左翼は気にしないでいい。
右翼が我が軍の横っ腹を突く前に退却する。
あの召喚者は捨て置け」
と魔術師に命じた。
魔術師が何かを唱え始めると、
水晶球に映し出されている野獣の体表から
血煙が吹き上がった。
「ぎょあがあぁあががぁー」
再度、皇子を見つめながら、咆哮する野獣。
「ぎぎゃぁ、、、キサマ、コロス。しョウブだ」
野獣は僅かに残った意識の欠片から、
言葉を紡ぎ、皇子に伝えた。
「これも召喚者の終わりの一つですか。
尋常に勝負です」
と皇子は言うと、片刃を両腕で持ち、構えた。
その言葉を聞くと、野獣は、人知を超えた速度で、
己の血煙をまき散らしながら、皇子へ突撃を敢行した。
皇子と野獣が交錯した瞬間、拳と片刃が2度、3度と
振られたが、互いに致命傷を与えることはなかった。
互いに距離を取ると、皇子の後方より、
馬蹄の音が聞こえて来た。
恐らくヴェンツが後詰を投入したのであろう。
そして、右翼の展開が完了すれば、
レズェエフ王国の軍は撤退すると皇子は推測した。
さすれば、放っておいても死に至る野獣と
リスクを冒して雌雄を決するは、まさに愚の骨頂であるはず。
しかし、皇子は自ら野獣との距離を詰め、片刃を振るう。
強者との争いに野獣は歓喜に震え、皇子を迎えうった。
お互いに死へ直結する一振りと一撃が
交錯するも当たらず、幾度も繰り返される剣闘乱舞。
しかし、先に野獣の命に限界が来た。
「ぐおおおぉー」
一際、強大な咆哮を発するとその場に倒れた。
そして、ピクリとも動かなくなった。
皇子は近づき、野獣の心臓を片刃で入念に潰し、
その死体より離れ、バルザース帝国軍に一旦、
撤収の指示を出した。
ほぼ同時刻にレズェエフ王国の軍も撤収を開始していた。
本当にどこに行ったー