2.先陣(才籐)
後方でまったり才籐さん
先陣を承ったバクティン将軍は
騎兵のみで平原を疾走していた。
敵から魔術や弓による遠距離からの牽制が
全く飛来してこなかった。
言葉通り無人の野を疾走していた。
違和感はあったが、そのままレズェエフ軍との距離を縮めた。
レズェエフ軍から、蜥蜴に乗った一人の男が
突出してきた。
全身だけでなく蜥蜴も漆黒に纏われ、
武器らしいものは持っていなかった。
そして、その男は、奇声を発しながら、
疾走するバルザース帝国騎兵の戦端に
衝突し、粉砕した。
その男の周りには殴りつけられ、
粉砕された死体が転がっていた。
勢いを削がれた軍は、その男の付近で一瞬、
動きが鈍くなった。
その瞬間、バルザース帝国軍の先陣を
飲み込むようにレズェエフ王国の軍が前進を開始した。
「貴様、名は何という?」
とバクティン将軍が漆黒の男に言うや否や槍を振るった。
「ぐううぅ、最高の気分だぜ」
振るわれた槍を避けながら、言い放つ男。
二撃、三撃と放たれる突きを避けながら、
一気に距離を詰め、バクティン将軍を
拳の距離に捉えると、一撃で顎を吹き飛ばした。
二撃目で頭を飛ばした。
そして、次の獲物を求めて、前進を始めた。
乱戦となっていたが、レズェエフの軍が
漆黒の男を先頭にバルザース帝国軍の
本陣へ着々と近づいていた。
肥沃な大地は血で染まり、両軍の累々たる死体が
覆っていた。
天候は晴天から、徐々に淀んだ灰色の雲に
覆われてきた。
そして、ぽつりぽつりと雨が降り始め、
その勢いは、激しくなり、視界を遮るほどに
なっていた。
本陣にて、皇子は両脇に控える二人の将軍に
指示を出した。
「この雨で更に両翼の軍の合流が遅れます。
サヴォワ将軍は、左翼のアルベリク候へ
合流を急ぐよう伝令をお願いします。
右翼は、伝令の必要はありません。
ラロンド伯爵は、本陣にて指揮をお願いします。
私は、先ほどから報告のある漆黒の男を止めます」
と有無を言わさず、皇子が指示を出すと、
近習の者を連れ、本陣を後にした。
「導師、この戦、どうみる?」
とアルベリク侯爵は、アグーチンに質問した。
「さて、天候は、レズェエフにお味方しておりますな。
この天候の変化には、魔術の臭いがしますな。
これほどの魔術を扱える者が
レズェエフにいるとなると、
如何に皇子であろうとも精々、
痛み分けが限界でしょうな。
本軍に頑張って貰い、ここは天候を理由に
戦力温存が上策ではと愚考しております」
とアグーチンが述べて、高らかに笑った。
「ふむ、サーボル。進軍速度を上手く調整しろ。
導師もこのような魔術が可能なのですか?」
とアルベリク侯爵が尋ねた。
「ぐふふふ、このような魔術、魔術師連盟の
第一席クラスが多くの生贄を捧げて、
はじめてできる御業ですわ。
非才の身であるわしには、到底、
及びもつかぬ魔術ですわ」
と悔しいのかいらいらとした声で答えた。
豪雨のなか、そのような会話をしていると、
サヴォワ将軍が伝令を携えて、
アルベリク侯爵の前に到着した。
アルベリク侯爵は、面倒な奴が来たと思い、
どのようにサポタージュを正当化すか思案していた。
一応、召喚者なので、軍ではそれなりの立場になります。