森の獣外伝 才籐さんの何気ない一日2 訓練2
才藤さん、成長の跡を見せる!
「ほう」と一言、皇子は発した。
技術的に目覚ましく伸びたかどうかは
分からないが、少なくとも以前より
落ち着いた雰囲気を醸し出す才籐に感心した。
「いい経験してきたようですね」
と皇子が話しかけると、以前ならいきり立つ才籐が
「ふん、驚くのは立ち振る舞いでなく、
俺の実力にしたらどうだ」
と言って、模擬刀を皇子の脳天に振り下ろした。
皇子から見れば、その所作には、まだまだ、
無駄が多かったが、才籐の実力を十分に
反映した一撃であった。
才籐の一撃を刀で受けると、
皇子は、そのまま力任せに押し返した。
その力に対抗せずにバックステップで
素早く、大きく後方に下がり、
前進してくる皇子へ才籐が最も得意と
する袈裟切りを見舞った。
しかし、才籐の刀は皇子の残影を
捉えただけだった。
皇子を見失った瞬間、才籐の右腕に
激痛が走った。
「ぐええっっー。ちょっとは加減しりょよな」
と痛みのせいで、舌を噛んだ才籐だった。
何度か手合わせを行い、幾つかの痣ができたが、
才籐は今までと違って、十分な手ごたえを感じていた。
「なかなか、成長しましたね。
この調子でしたら、次回の出征には
同行することになるでしょう」
と皇子が才籐の実力に感想を述べた。
「おいおい、出征って。
レズェエフ王国との戦は、
大方、局地紛争で終わるだろうよ」
「いえ、どうも今回はそうでもないようです。
そもそもレズェエフの軍が侵攻してきましたからね。
バルザースの国境付近の砦で
足止めしているようですが、退却する様子が無いようです。
バルザース帝国の誇る帝国騎兵団が出征します」
と皇子が現在、展開されている戦について説明をした。
「ふん、帝国騎士団が出征するなら、
その筆頭指揮官様の皇子も行くってことか」
「まあ、そういうことです。
才籐さんも出征することになりそうですよ」
と皇子が言うと、
「俺の場合は、アンカシオン教の意向次第だからな。
言われたら、考えるわ」
と言って、軽く挨拶を済まして、練兵場を後にした。
時刻は、練兵場の入り口に設置してある水時計が
7刻を少し過ぎた時間を示していた。
教会の宿舎で過ごすのも億劫だったために
才籐は魔術屋に向かった。
賑やかな街を横切り、変わらず閑散とした
雰囲気の街並みの一角にある暗い雰囲気の店を
才籐は訪れた。
扉を開けて、入店すると、綺麗なエルフが
店の雰囲気にそぐわない満面の笑みで
「いらっしゃいませー」
と告げた。
「さて、今日は何を買ってやろうかな」
懐に余裕のある才籐が鷹揚に答えた。
「なんだ、才籐か。冷やかしなら、
さっさと帰れ、忙しいのだ」
「客なんていないだろうが。
ふっ、これを見てもそんなことが言えるかな、
ビルギットさんよ」
とチンピラのような物言いの才籐だった。
ビルギットは口をパクパクして、
唖然としていた。
両手を胸にあてて、落ち着かせると、
「おっおまえ、何をしたんだ。
犯罪行為で得た金には、何も売らぬ」
「ちょっと待て、これは俺への正当な報酬だ。
司祭から渡されたんだよ」
とむきになって、弁解する才籐だった。
おおっ!