62.プレッシャー
ううっ!プレッシャーに弱い九之池さん
「そう言えば、今、研究中の異世界の技術を
盗んで来いと言われたよね」
と九之池は、ルージェナに突然、話し掛けた。
メープルはぎょっとしたような表情で
九之池を見て、その後、エドァールの方を向いた。
突然のこの発言にエドゥアールは額に
汗をかき、メープル司祭の言葉を待った。
「九之池さん、違いますよ。
盗むのではなく、お互いに
転用しようとしている異世界技術の
研究で行き詰っている点を
話し合うということです。
それと同じ世界の出身どうし交流を
温めようということじゃないですか!」
とルージェナが取りなした。
エドァールの形相とメープルの疑惑の目を感じ、
九之池は慌てて、話を合わせた。
「そっそうだね、どう転用すれば、
いいかと悩んでいたから、稲生さんの研究と
被ってないようだったら、相談しようかな」
「そうですか、そのような目的でしたか。
エドァールさんから、詳細のお話を伺って、
キリア王朝と話を進めていました。
まあ、親交を温めるためだけだとは
微塵も思っていませんでしたが、
あまりに露骨な発言は
控えて頂ける方が助かります」
とメープル司祭がエドァールに向けて、
言い、更に話を続けた。
「大変失礼かと思いますが、
念ため、ここで明後日に稲生様に
お会いした際にどのようなお話を
されるか説明を伺ってもよろしいでしょうか?」
「いや、明日まで待って頂けないか、司祭?
ベルトゥル公国として、今日、
内容をすり合わせておきたいので」
とエドゥアールがメープルに伝えた。
「ええ、その方が良さそうですね。
キリア王朝も何名か参加しますので、
あまり不適切な発言は控えて頂けると
助かります、エドァールさん」
とメープル司祭がニッコリと笑って、部屋を出た。
「おっおまえはぁー。ふぅ、もういい。
今、ルージェナが言った何か研究というか
考えているアイディアがあるのか?」
メープルが部屋を出るなり、青筋を立てて、
エドァールが怒鳴りつけた。
ここ最近は鳴りを潜めていたエドァールの罵声が
飛び出し始めて、公都にいた頃のようになっていた。
エドァールの質問のようなことは、何も考えずに
ここまで旅をしてきた九之池は、答えられずにいた。
すると、エドァールが低い声で言った。
「まあ、いい。
九之池、私やヘーグマン殿はいいんだ。
各々に受けた命令があり、それを遂行しているからな。
特にお咎めないだろうよ。
しかし、もし、おまえが稲生と交友を
温めてきましたで済ませたら、公国は納得しないぞ。
まあ、処罰の対象になるな。
そして、牢屋で過ごすことになったら、どうなると思う?」
とエドゥアールの表情が真剣そのものだった。
九之池は怒鳴るでもなく、めったに見ない
真剣なエドァールの表情にごくりと喉を鳴らして、
「どうなるのでしょうか?」
と尋ねた。
「まあ、残念であるが、そこの娘は、
お前がコロスことになるだろうな。
シリア卿はどのような手段を使ってでも
必ずお前の意識が明確な状態で
殺害させるだろうよ。
そして、お前は刑期を
あのくすんだ石造りの城の牢獄で
過ごすことになるだろうよ」
とエドァールは疲れたように言った。
「はっ?まじで」
九之池は、改めて、素で答えてしまった。
「そうだよ、まじだよ。
だから、なんでもいいから、派手に
報告できるようなことをでっち上げろ」
とエドゥアールが言った。
「どのみち、時間もない。
7刻半、ここにもう一度、集合しろ。
それまでに九之池、何か考えておけよ、いいな!
お前がどうなろうとも知ったことではないが、
ルージェナを巻き込んだ以上、最後まで責任を持てよ。
一応、言っておくが、シリア卿は、サディスティックな
一面があるからな。
ぎりぎりまでルージェナを嬲り弄り尽くして、
その一部始終をお前に見せてから、
殺させるだろうよ」
と忠告とも脅しともとれることを言って、
エドァールは、部屋を出て行った。
最後に残ったヘーグマンは、
「エドァールの言ったことはあながち嘘で
はありません。
流石にここまで何も考えていなかったことは
称賛に価します。
まあ、技術とは物作ることだけではございません。
例えば、国を統べるための方策や商人の出入りを
増やす方法論、軍隊の運営方法など、
形にならぬもの技術と言えましょう。
では、7刻半にまた、お会いしましょう」
とにこやかな表情で部屋を後にした。
「ううっ、どうしよう。難しすぎる」
と言って、九之池は、残り2刻の間に
とりあえず何か考えねばと頭を抱えた。
胃が痛むっ!痛いイタイ