56.知識と経験
九之池さんの経験がきらりと光るかも!
人間らしきものは、ゆっくりと顔を上げて、
九之池たちを見つめた。
そして、何事か呟き、両手で掴んでいる杖を
振り下ろした。
振り下ろした杖が大地に接触した瞬間、
土が盛り上がり、人の形を模した物が
5体ほど形成された。
おそらく素材は洞窟の土であろうと九之池は思った。
「うーむ、あのサイズの土塊を5体も
瞬時に精製するとは、中々出来かねますな」
とヘーグマンが感心していた。
「確かに相当な使い手ですね」
とルージェナも感心していた。
「ってか感心してる場合かっ!
相当な魔術師なんだろう」
と珍しく才籐が危機感を煽っていた。
「まあでも所詮は、素材が土ですから、
強さに限界がありますので。
切るよりも殴る的な感じ攻撃すれば、
いちころですよ」
と九之池が珍しく、のほほんと答えた。
「えっ、なんでおっさんが落ち着いているの。
なんなの?なくない?」
九之池の落ち着き具合に、焦り出す才籐だった。
「えっ、それは、石とか鋼ならまだしも
ここの柔らかい土で作られたゴーレムですよ。
弱いに決まっているじゃないですか。
ゲームでも弱いですよ」
と九之池が落ち着いて答えた。
「ちっ、いい歳したおっさんの経験上の
判断がゲームかよ。ったく」
と才籐が捨て台詞を吐いて、剣を抜き、構えた。
「ふむ、この土塊では威嚇にならんかな。
さて、どうしたものかな。
外で得た魔犬の魔石で満足して、
帰って頂けないものかな。
ここには何もないのだがな」
とその人間らしきものがぶつぶつと話しだした。
「それとも嫌がらせか。
何も危害を与えていないのに
有無を言わさず暴力を振るうとは、
無頼の徒だな。さて、どうすべきか」
と続けた。
そして、更に続けた。
「うむ、交渉の余地はなさそうだな。
然らば、戦うのみ。
屑どもには遠慮はいらぬな」
と言い終えると、幾つかの魔石を取り出し、
手前に放り投げた。
魔石は地面に落ちると割れ、煙を噴き上げた。
そして、煙は洞窟を覆うように広がった。
「おっさん、これ、拙いじゃん。
一旦、退却だろう」
と才籐
「うっうん、ヘーグマンさん、ルージェナ、
一旦戻ろう。これはまずい」
と言って、洞窟から出ようとした。
「俺が先頭で行くから、わりーけど、
ヘーグマンさんが最後尾で頼みます」
と言って、先頭を走りだした。
煙は洞窟の最深部から、満たしはじめ、
その勢いは尽きることが無さそうだった。
九之池たちは、洞窟から抜け出ると、
一旦、落ち着くため、少し洞窟から離れた場所で
休息を取ることにした。
煙は彼らに追いつくことはなかったが、
今も洞窟から噴き出ていた。
「九之池さん、煙に毒や麻痺するような効果が
含まれていたのですか?
才藤さんも随分と焦っていましたけど」
とルージェナが尋ねた。
「その恐れもありましたが、閉所を
煙で満たされるとそれ自体が危険なんですよ。
意識を刈られて、死にます」
と九之池が汗を拭きながら、説明した。
ヘーグマンは、感心したような面持ちで
九之池を見ていた。
「さてと、村に戻って、休んでから、
改めて明日、調査しますかね?
依頼はこなしましたし、あそこにいた人も
撤退しているでしょうけど、
確認のためにどうですか?」
と九之池が方針を述べると、
各々、了解し、一旦、集落に戻ることにした。
「おっさんが珍しく積極的だ。
どうしたんだそんなキャラじゃねえはずだ」
才籐は、九之池によくわからない疑惑の目を
向けていた。
おそらく、会社の消防訓練が生かされたのでしょう!