50.復活の九之池
なだろなー
「ふぐぅ、ぐうううっ、ぐほぅ、、、、、」
九之池はうなされていた。
ベッドに倒れ込んだまま、眠りに付き、
身体全体が脂汗にまみれていた。
そして全身のその汗をルージェナが
丁寧に拭き取っていた。
しかし、その姿は憔悴しきっていた。
数日にわたり介抱に付き添ったことに加え、
無意識に発せられる九之池の心無い言葉が
彼女を悩ませた結果だろう。
メープルがドアをノックし、入室すると、
しょんぼりとした姿で九之池の汗を
拭うルージェナが目に映った。
それだけで、メープルは若干の
イラつきを感じていた。
教義に基づき、召喚者である九之池を
助けるべきであるが、どうもこの召喚者の
行動や態度、発言がメープルにそれを
拒否させるように働いていた。
メープルは無言でまず、ルージェナに祈りを捧げた。
この娘が無償の奉仕をしている訳でないことは
何となく察していた。
何かしらの打算があるのだろうが、
今の彼女の様子を見ると、メープルにはそれが
どうでもいいように思えた。
少しでも彼女が回復するよう
彼女のために祈りを捧げた。
ルージェナは後ろを振り向くと、
泣きそうな顔で、頭を下げて、
「メープル司祭、どうしたらいいのかわかりません。
九之池さんがベッドに倒れ込んでから、
ずっーとこの調子なんです」
と訴えた。
おそらく彼女も疲れきっているのだろう。
他のメンバーに相談するということすら、
思い至らなかったのだろう。
そう思うと、メープルはここまで悪意なく人を
追い込んだ目の前の召喚者に嫌悪しか感じなかった。
「ルージェナ、心配しなくても大丈夫です。
彼には悪い虫が今、宿っているのです。
今から、祈りを捧げます」
と安心するように微笑みをルージェナに返した。
「おっお願いします」
とお辞儀して、メープルに場所を譲った。
祈りを捧げられた九之池は、酷く咳き込み、
大量の痰らしきものを吐き出した。
げほぅげほうぅぼぼぼぅと止まることなく、
3分程、吐き続けた。
部屋には卵の腐ったような臭いが
充満したため、メープルは急ぎ、窓を開けた。
痰はのそりのそりと床を這いずり回り、
また、九之池の方に向かった。
「ルージェナ、炎だ。
あのヘドロのようなものを燃やしないさい。
また、九之池に取り入ろうとしています」
と急ぎ、メープルが伝えると、
ルージェナは、頷き、火力を調整して、
燃やし尽くした。
九之池は、燃え盛るヘドロから生じる煙により
咳き込み、意識を戻した。
こんな状況の割には、若干だが気分が軽い。
周囲を見渡しながら、咳き込み、前世界での知識を
ルージェナとメープルに向かって伝えた。
「煙を吸い込んではダメです。
低い体勢で、口に濡れた布を当てて、
早くここから逃げましょう」
そう言うと九之池はおもむろに
ベッドから降りて、ドアから、逃げ出そうとした。
ヘドロは、ほぼ燃え尽きており、ルージェナは炎を
消し去った。
そして、メープルは、九之池に向かい、
「炎も煙も心配せずとも大丈夫です。
何かしらに心が囚われていたとは言え、
あなたの本質と性根は、十分に拝見させて
頂きました。
その歳で変わるのは難しいかもしれませんが、
努力してください。
そうしないと、私は、到底、あなたに協力できません」
と伝えて、部屋を後にした。
メープルが部屋を後にした直後、
ルージェナは、ベッドに座り込み、何かを
考えている九之池を思いっきり抱きしめていた。
「よかった」
「ルーたん、ごめんね。
どうも弱いから、また、やらかしたみたい」
と九之池は、絞り出すように答えた。
「うなされながら、何かと争っていたんですよね。
あのまま、激情に駆られて、力が解放されないように
していたんですよね」
と泣きながら、九之池に言った。
九之池はポリポリと頭を掻きながら、
何と答えていいかわからず、無言で
ルージェナの背中に腕を回して、
ポンポンと軽く叩いた。
少しの間、そうしていると、ルージェナの嗚咽が
少しずつ小さくなった。
その瞬間、ノックもせずにドアが突然、開いた。
その音にびっくりして、ルージェナが悲鳴を上げて、
九之池から離れた。
「えっ、おっさん、何した?」
と才籐が疑惑の目を向けた。
ルージェナは顔を涙で濡らし、
九之池の胸の辺りが濡れている。
状況が全てを物語っていると才籐は
判断したが機先を制して、九之池が言った。
「才藤さん、変な誤解はしないでくださいね。
お願いですから。これで何度目ですか!
間が悪ですよ」
とにこやかに言った。
いつ盛られたかは、永遠の謎