10.リン戻る
稲生、つつがなく生活、、、話し相手がいないよー
「何事もなく過ぎるなー」
ドリアムに忠告を受けた後、
稲生は、宿舎内と練兵場で過ごしていた。
午前中は、一般的な文字を自分なりに
リストを作成し、読めるようになるように勉強し、
午後は、体力の向上と投擲の練習に努めていた。
共に劇的に向上することはなかったが、
2、3日続けると、稲生は手応えを感じ始めていた。
絡まれるようなこともなく、平穏な日々を
過ごせた稲生であった。
練兵場でのトレーニングを行っていた
5日目の午後、稲生をドリアムが呼びに来た。
「王都より、リン様がお戻りになりました。
執務室にご一緒ください」
稲生はうなずくと、ドリアムの後に続いた。
ドリアムがドアをノックすると、
中より、「入れ」との声がした。
「リン様、稲生を連れてまいりました。
彼の日常に関しては、先ほどの報告通りです」
リンは、
「余計なことは言わぬことだな、
君は業務に戻り給え」
とドリアムに伝えると、彼は無言で退室した。
「早速だが、稲生。
それで、何か召喚者としての特異能力は
見つかったのかな?」
稲生は、ドリアムよりある程度、
自分のことに関して報告がされていると判断し、
自分の見解を正直に述べることにした。
「そうですね、リン。
この世界の一般的な守備兵より、
身体能力が高いことですね。
残念なことに体力が続きません。
ただし、これは今後のトレーニングで改善できるかと。
それと、投擲による遠方からの
攻撃能力に秀でているかと。
現状で認識できているのはこの二点です。
あの、以上です」
リンは、瞳を閉じつつ、稲生の発言を聞いていた。
「ああ、すまぬ。
君の話とドリアムの報告書から、
考え事をちょっとね」
リンは瞳を開けて、稲生をみつめて、話を続けた。
「その二点に加えて、君は気づいてないようだが、
祈りや魔術に頼らない高い回復力、
この世界への理解力の速さ。
過去の召喚者に比べると低い能力で
あるがないよりましか」
「はあ」
稲生は、気の抜けた返事をしてしまった。
「まあ、良い。
数日後にまた、獣を狩ることになるだろう。
稲生にも参加してもらう。
拒否は認めない」
稲生は、その話に一瞬、頭が真っ白になった。
そして、なぜ、何事もなく過ごせたのかを理解した。
また、獣の贄にされることを誰もが知っていたからだ。
「稲生、君にも戦う準備があろう。
数日後に王都より、軍が到着する。
それまでにこの金で、色々と準備してくれ。
まあ、なんだな、何に使ってもよいから、
後悔しないように使ってくれ」
能面のような顔になって語るリンから、
金貨や銀貨の入った革袋を投げ渡された。
稲生は何の表情も読み取れぬリンへ
お礼の言葉を述べて、執務室を後にした。
「彼にとって、この地で亡くなるのは、無念だろうな。
まあ、仕方ないか。
我々も召喚できる人物を選べないのだから」
リンは、呟き、獣を倒す算段の検討を始めた。
数日後、1000名の兵卒と共に
国柱たる将軍職に連なり、神の力を模すると称される
神象兵器の担い手が二人、王都より
到着することになる。
稲生は、部屋に戻ると、このお金とリンの言葉に
思いを巡らす。
これって、死亡フラグの立っている人への餞別?
とりあえず、明日、町で買い物だ!
色々と考えることをやめて、夕食を取ることにした。
あっ、話し相手が戻って来たー