シエナ視点02
お父さんに呼び出されて執務室に行くと、お父さんとその息子あたしの異母兄に当たる人がいた。
そしてソファーに座ると、お父さんがゆっくりと話し始めた。
「シエナ、お前は学園で恋人がいるそうじゃないか。何でもその方は伯爵家の子息だとか」
「そうなんです!アーロン様って言ってとっても素敵な人なんですよ!」
いきなり呼び出されたから、何かやらかしたのかとドキドキしてたけど、なーんだアーロン様の事かぁ。
でも何で知っているんだろう?
誰にも言った事なかったのに。そう思っていると異母兄であるお兄ちゃんが喋り始めた。
「先方が是非にとアーロン殿とシエナの婚姻を望んでいる。我々としても伯爵家からの申し出だ。受けたいと思うがいいだろうか?」
お父さんとお兄ちゃん、さっきからずっとニコニコしてるって事は上手くいったんだ!
あたし、伯爵夫人になれるんだ!
「是非受けて欲しいです。アーロン様と結婚できるなんて夢みたい!」
本当に嬉しくて、思わず大きめの声が出ちゃったけどそれくらいはいいよね?
その時のあたしはすごく浮かれていた。
だからお父さんとお兄ちゃんの目が全く笑っていなかった事も、一言も伯爵家に嫁げるなんて言われてない事も理解していなかった。
「早速だが明日からアーロン殿と一緒に暮らす事になる。学園にももう通わなくていい。明日シエナを迎えに馬車が来るから今から準備をしなさい」
「本当ですか!?嬉しい!っていうか明日から一緒に住むって事はもう結婚するって事?学園も行かなくていいなんて本当ですか、お父さん!」
「あぁもう通わなくていい。明日迎えに来る馬車に乗り、アーロン殿と教会で式を挙げる。突然の事だから簡素な物になる。でも心配しなくていい。愛する人と添い遂げられるのだ。良かったなシエナ」
そうお父さんに言われて、結婚式が挙げられないのは残念だったけど、まぁ伯爵夫人になったら贅沢しまくればいっか!って思って深く考える事はやめた。
そして翌日、迎えに来た馬車には本当にビックリした。だって学園に迎えに来ていた馬車よりも豪華だったんだもん!!もう心の中では興奮しっぱなしだった。
そして乗り込もうとしたら、御者の人から婚姻証書に既にアーロン様のサインがあるから、そこの横にあたしもサインしてくれって言われて、サインしてそのまま渡した。
書き終わった婚姻証書は、御者の人が教会に届けてくれるって言ってたから素直にお願いしといた。
アーロン様は先に二人の新居で待ってるって話だったから、そのまま馬車に乗り込んだんだけど、中の座席がフワフワで座り心地も良くてこれが全部あたしの物になるって思ったらもう叫び出しそうだった。すぐ口を押さえたけど大丈夫だよね……聞こえてないよね?
でも、さすが伯爵家ね。男爵家と全然違う馬車でビックリしちゃったもん!!
あー、これであたしも伯爵夫人かぁ。
これからの生活を想像して、胸を弾ませていたあたしはいつの間にか眠ってしまっていた。
あたしは幸せになれるはず。
だって平民から貴族になれた幸運な少女は、この後も幸運が続くって誰もがそう思うじゃない?
だからあたしは信じて疑わなかった。
この幸運は続くんだって。これからはもっと贅沢して幸せに暮らせるんだって……
でも次に目覚めた時。あたしは本当の現実を思い知る。