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最終話・シエナ視点03



 目の前で崩れ落ちるアーロンを見て、心底鬱陶しくてイライラした。

これだから全て与えられて生きてきたボンボンは困るのよ。

あたしはあんたに騙されたのよ!?

泣きたいのはあたしの方だし、崩れ落ちたいのはあたしなのよ!?


 本当にムカつくけど、この男の状況を見るからにもう戻れない事は事実みたいだし、すぐに離婚できるのか分からないから早く調べないといけない。やる事はいっぱいあるのに。


「ちょっと!いつまでベソベソしてんのよ!男なら覚悟を決めなさいよ!本当に鬱陶しいわね」

何も答えないアーロンに、面倒臭くなったあたしはアーロンを放っておいて外に出てみる事にした。


 全く知らない土地に置き去りにされたのか、見た事のない景色が広がっていた。

さらにイライラする。


 とりあえず急いで働き口を探して働かないと。

あたしはここで野垂れ死ぬ気は更々ない。


 ひとまずあの男を放って出て行く訳にもいかないから、小屋に戻ってアーロンに声をかけた。


「あたしはここを出て仕事を探すけど、あんたはどうするわけ?まさかその絶望ポーズで一生いるわけ?」

「……君には分からないだろう……僕は全部失ったんだぞ!?」

あぁこういう奴、本当にイライラするわ。

「だから?自分には一切非はなかったわけ?自分だけ被害者面とか気持ち悪すぎ。もう現実はどう足掻いたって変えられないじゃない!あんたもあたしも貴族じゃなくなった。これは変えられない事実なの。だったらこれから平民として、どうやって生きていくか考えた方がよっぽど有意義。ベソベソする暇があるなら仕事探して働きなさいよ!!」

あまりにイライラして、思わず捲し立てたらアーロンは黙っちゃった。



あー本当にどうするのよこれ……



しばらく様子を見てたけど、動く気配がなかったからとりあえず働き口を探す為に、場所を移動しようと思い立ち上がると、アーロンがボソボソとだけど話し始めた。

「分かってる……本当は分かってるんだ。もう戻れない現実なら受け入れないといけないのは分かるけど、突然すぎて受け入れられないんだ。シエナの言っている事もちゃんと理解してる……だけど心がついていかない」

「……だったら尚更、しっかりしなさいよ。今は前見て現実生きなきゃ。今のまま立ち止まってちゃ反省なんて出来ない。ずっとずっと後悔して生きていくだけなのよ。アーロンも、あたしもきちんと前見て現実を見るのよ。逃げちゃダメなのよ……アーロン、行くの?行かないの?」

何でこんなボンボン置いていけばいいのに、さっきから踏みとどまってるんだろう?

放っておいてもあたしには関係ないのに。

そう思いながらも、気づけばアーロンに手を差し伸べていた。


アーロンはおずおずと手を伸ばしてくる。

「シエナ……君は強いな。僕は男なのに全然ダメだ」

「ボンボンとして生きてきたんだから、平民に落とされて不安にならない方がおかしいでしょ。いいわ、あたしが平民の生き方を教えてあげる」

玉の輿目当てで近づいただけなのに、平民になったこの男をあたしは見捨てる事が出来なかった。

いや違う。見捨てちゃいけない気がしたの。だってそれがあたしに出来る唯一の償いのような気がしたから……


 だけど本当は泣き叫びたい。

どうしてこうなったんだ!ってこの男に掴みかかりたい。

だけど本当は分かってる自分もいる。アーロンのせいじゃない、これは人のものを欲しがったあたしが全部悪いんだって。

叫び出しそうな自分を、歯を食いしばってグッと堪える。




どれだけ後悔してももう遅い。

失ったものはもう二度と戻らない。


あたしはこの日、自分の罪の重さを知った——









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― 新着の感想 ―
[一言] たしかにアーロンは数多くのものを失ったけど、シエナは何一つ失ってないですよね。単純に平民に戻っただけなので。 シエナの方が悪質なので彼女には慰謝料を請求しても良かったのかなと思います。アーロ…
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