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その三

続きました。

十話以内に終わると言いましたが、下手するとそれをオーバーするかもしれませんね。

これがガバチャートと言う奴か。

「オ゛キ゛ナ゛ァァァァァーーーーーッ!!」

「どぅわぁ! ビックリした、なになになに!?」

「全ロスしたぁぁぁーーーーーッ!!!」

「あ、なるほど」



 ある日の事、いつもの様に仕事を済ませて縁側で日を浴びて寛いでいると、絶世の美少女顔が台無しのくしゃくしゃ状態になったカグヤちゃんが俺に泣き付いて来た。

 どうやら全ロス、身に着けていた装備品や持って居たアイテムを全て失ってしまったらしい。


 取り敢えずカグヤちゃんを落ち着かせて状況を確認しよう。

 場合によっては、ある程度リカバリーが利くからな。



「とりあえず落ち着いてカグヤちゃん、一体どういう状況で全ロスしたんだ? 場合によってはいくらか取り返せるかも――」

「直下掘りしてマグマ溜まりに落っこちちゃったぁぁぁーーーーー!!」

「あ、はい。駄目みたいですね」

「うわぁーーーーーんッッッ!!!」



 そりゃあ駄目だわ、どうしようもねぇよ。

 直下掘りとは自身の足元を掘り続ける事で最短で限界深度まで掘り抜く方法である。

 一直線に掘る為深い所まで掘る分には手っ取り早いが、今回のカグヤちゃんの様に地下に存在するマグマなんかに落っこちて死ぬ危険性もある諸刃の剣だ。

 今回カグヤちゃんは、見事にそのリスクにぶち当たったようである。

 ちなみに、ゲームマップ内で死亡しても本当に死ぬ事は無い。

 ゲーム同様、リスポーン地点にリスポーンするだけだ。全てを失った状態で。



「だーから直下掘りは危ないから階段掘りか螺旋階段掘りにしなさいって言ったでしょ?」

「だってバケツ用意してたから大丈夫だと思ってたんだもん。結局慌ててて使わなかったけど……」

「あるある過ぎて逆に何か安心しちゃったよ」



 ぶっちゃけ俺自身も経験のある失敗だった。

 もっともそれは前世でのゲーム中の話であって、今生では態々生身でマグマに焼かれたくない為、採掘などマグマにぶつかる危険性のある作業の際は常に火炎ダメージを無効化するポーションを服用するようにしている訳だが。

 取り戻せないのは確定したので、具体的に何をロストしたのかを聞いてみた。



「でー、結局何ロスとしたのよ?」

「フルエンチャしたミスリルの防具一式とツール一式。直下掘りしてから採掘しようと思ってたから、後は水の入ったバケツくらい……」

「あっちゃー、そりゃ痛い。ツールの方はオリハルコン一式に切り替えてたら何とかなったんだけどなぁ」

「そのオリハルコンが全然でないからミスリル装備フルエンチャが限界だったんだもん! うわーん!」

「あーよしよし」



 泣いているカグヤちゃんの頭を撫でて宥める。

 グスグス言ってても、これをやっていれば次第に落ち着くのをこれまでの一緒に過ごして来た中で俺は学んでいた。


 しっかしまぁ、カグヤちゃんは本当に良く笑い、良く泣き、良く騒ぐ。

 己の感情に素直過ぎるその在り様は、見た目の年相応、あるいは見た目よりもずっと幼く感じられた。

 カグヤちゃんの正体は人間以上の寿命を持つ月の都の住人であり、おそらくは俺よりもずっと年上の筈だ。

 だが、目の前に居るカグヤちゃんは、まるで見た目よりもずっと幼い子供の様に自らの感情を露わにして騒がしく賑やかな毎日を過ごしている。



(あるいは、それこそがカグヤちゃんが月の都とやらで犯した罪に関係があるのかもしれないな)



 竹取物語において、かぐや姫は月で罪を犯し地上に期限付きで追放された罪人であると語られている。

 その罪の内容こそ書かれてはいなかったが、こうして自由に今の生活を満喫しているカグヤちゃんの姿と、竹取物語でかぐや姫が月へ帰る際に被らされた感情を消し去る羽衣の存在を思うと、どうもその辺りが語られていない罪に関係しているのではと思えて来る。

 あるいは、罪を犯したからこそ感情を消し去る羽衣なんて被らされたのかもしれないが。



「……その時になったら、俺はどうするんだろうな?」

「? どうしたのオキナ?」



 ついつい漏れてしまった呟きにカグヤちゃんが反応する。

 それを俺は手を振って誤魔化した。



「いや、何でも無いよ。それよりロストした装備、揃え直すの手伝うよ」

「ホント? やったぁ!!」

「急に元気出して現金な子だねぇ」

「そん言うの良いから速く行こうオキナ! ついでにオリハルコン探しも手伝ってくれる?」

「それは面倒だからやだ」

「えぇーーーっ!?」



 騒がしいカグヤちゃんに手を引かれながら考える。

 その時が来たら、カグヤちゃんが月に帰る際、今の天真爛漫な元気に溢れた姿はどこにもなく、感情の無い瞳で俺の前から居なくなる時の事を。

 いくら考えても答えは出ないまま、結局ツール一つ分のオリハルコンを集めるまでカグヤちゃんを手伝い、その日は眠りについた。


 俺は結局、どうしたいんだろうな?

結末は決まっていると思いつつ愛着もしっかり抱いているオキナくん。

次回からはかぐや姫に求婚した五人の貴族の話に突入する予定です。

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