その一
気分転換に書きました。
続くかは気分次第、あるいは評価次第です。
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
野山にまじりて竹をとりつつ、よろづの事につかひけり。
名をば―――
「――『讃岐の造となむいひける。』 ……ってか?」
どうも皆様初めまして、『竹取の翁(チート転生済み)』です。
テンプレの様に神様のミスで交通事故に遭い、流れ作業の様に巻きでチートを持たされて転生しました。
ちなみに事故死から神様に会ってチート持たされて転生するまでの所要時間は一分ジャストでした。
カップ麺でももう少し余裕をもってると思います。
現状把握もままならないまま放り出された当初は呆然としましたが、転生したのは既に十年も前ですので遠い思い出です。
ちなみに貰ったチートは当時ハマって居たサンドボックスゲームのクラフト能力でした。
使い勝手がいいのでいい能力を貰ったと思います。
後、翁とか名乗って居ますが転生前含めて今年で二十七なのでまだまだ若いつもりです。(なお、当時の平均寿命)
まあそんな事はどうだっていいんだ、大して重要な事じゃない。
そんな事より問題なのは……
「これ、どうしよっか?」
目の前にある一本の竹、皆様ご存知かぐや姫の居るであろう光る竹である。
いやまぁねぇ、自分の名前が讃岐の造な時点でいずれこうなる事は大体予想してたよ?
でもさぁ、実際に対面するする事になるとしてももっと先の話だと思ってたんだよ!
だって原作の竹取の翁って五十歳だか七十歳だかなんだよ?
最低でもあと二十年は先の話だと思ってたんだよ!
あーもうどうしよ、実際どんな対応するかとか未来の自分に全投げだからなんも考えてないぞ。
大体原作の翁はおかしいんだ! 竹から出て来た小人を自分の子供になるはずの人のようだとか言って連れ帰ったんだぞ? おかしいだろ!
宇宙から伝播でも受信してトチ狂ったのかって……そういやかぐや姫って宇宙人だったな。
なんだろう、原作の竹取の翁はかぐや姫から催眠光線を受けていた可能性が微レ存?
平安時代に月と地球を往復できたりしてるし不老不死の薬だって作れるし、催眠だの洗脳だのも出来てもおかしくは無いか?
そもそも竹取物語って平安時代の出来事か? 確か登場人物の五人の貴公子のモデルが飛鳥・奈良時代の人物だって話を聞いた事があるし、そもそもかぐや姫と竹取の翁のモデルが古事記の登場人物だとかって話も聞いたが?
「……って、いかんいかん。脱線してるな」
今が何時代かなんてどうでもいい話だ、そもそも元々生きていた世界の過去の日本かどうかも判らんしな。
転生してから十年、その間に妖怪変化や魑魅魍魎の類にはそこそこ出会ったし、大昔の日本にそっくりなファンタジー異世界と言われても納得出来る。
……まぁ、自分自身がチート転生なんてファンタジーな目に合ってるんだから、生きていた頃の世界も俺が知らないだけでファンタジーだった可能性も十分あるが。
兎も角、目の前の光る竹、ひいては竹の中に居るであろうかぐや姫をどうするかが問題だ。
原作なら家に連れ帰って妻であるお婆さんに育てて貰うんだが、あいにく今生の俺は未だに独身だ。
年齢的に考えてももっと結婚に焦るべきなのだろうし、縁談の類も来ないことは無いのだが……何と言うか、転生する前の現代の価値観が残っているせいで今の世の女性とは今一噛み合わないのだ。
赤ん坊スタートでこの世界の住民として一から生活して来たのならまた違ったのだろうが、幸か不幸か神様に貰った(というか押し付けられた)チート能力のおかげで現代と比べそれほど生活水準を下げずに生きてこられたことがより一層他者とのズレを大きくさせている気がする。
まぁそれは良いんだ、今の生活を失うくらいなら生涯独身でも構わないからな。
「となると、連れ帰ったら俺が付きっきりで面倒見なきゃなんだよな……」
三か月ほどで成人女性ほどに成長するそうだし、本物の赤ん坊を育てるよりは難易度は低いだろう。
チートのおかげで自給自足出来てるから食うに困ることはないし、意外と行けるか?
「いやいやまてまて、何で連れ帰る方向に考えてるんだ?」
そもそも連れ帰る必要はあるのか?
竹取物語は歴史的な大事件でも大作RPGみたいな神話英雄譚などでも無い。
別に原作通りに進めなかったからと言って、世界が滅んだりする訳でも無いのだ。
かぐや姫を連れ帰れば原作通り竹の中から黄金を手に入れられるようになるかもしれないが、黄金なんてチートを使えば採掘出来るし、そもそもチートのおかげで衣食住には困って無いし金なんていくらでも稼げる。
寧ろ将来五人の貴公子だの国の帝だのが凸して来て、その上最後は宇宙人である月の使者とやらまで来るのだ。
寧ろ連れ帰る方がデメリットが大きいのでは?
「……よし、見なかった事にするか」
そうと決まれば回れ右だ、しばらくこの辺りには近づかん方が良いだろう。
クラフト素材的に竹は結構優秀な素材なのだが、別にここで無きゃ取れない訳じゃないし今まで伐採してきた在庫がインベントリの中に大量に収納されている。
大体連れ帰って育ててどうすると言うのだ? そんな事をしても、結局は月の都とやらに帰るのだから意味なんて無いじゃないか?
折角の二度目の人生、一度目は訳も分からぬまま短い生涯を終える事となったが、今度は平穏無事に自由に長生きしたい。
自ら厄介事のタネを拾う事なんて無いじゃないか。
君子危うきに近寄らず、俺は間違っていない。
俺は間違っていないんだ。
「……と、思うんだけどなぁ」
回れ右して一歩二歩と進み、十歩目辺りで足が止まった。
やれやれ、何だかな。
「……はぁ。おーい、中に居るんなら首引っ込めてろよ? 上の方で斬るからな」
竹の下に戻り光っている辺りをコンコンと爪の先で叩きながらそう警告し、しばらくしたところで手斧を振るう。
チート能力でクラフト、強化された手斧はまるで豆腐を切る様にスッと竹を切り裂いた。
竹の中には予想通りというか何と言うか、お話に出て来る姿そのままの掌に隠れるほどの小さな女の子が座っていた。
「ま、これも縁って奴かね? 長い……いや、短い間だろうけどよろしくな」
聞こえているんだかいないんだか、ニコニコ微笑みながら小首を傾げる仕草に思わず苦笑が漏れる。
結局俺は、その女の子を落とさない様に慎重に抱えながら家に連れ帰ったのだった。
竹取物語ってスゲーよな。
平安時代に書かれたのに作中のヒロインが思いっきり宇宙人(月の都出身)なんだもん。
TS小説とか約二百年前から既にあったし(傾城水滸伝)、日本人ってやっぱおかしいわw