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童貞卒業前に死んでもーた

作者: にのたろう

 今日で卒業だ。

 春樹は「初めて」に対する期待と不安でいっぱいだった。そのせいか、会計の値段で小銭を確認せず、お札のみで会計した。出入り口の自動ドアを抜けて道路の向かい側のホテルに向かう。左手にはコンビニで買った酒やつまみ・菓子類の入った袋。そして右手には…

「私、なんか緊張してきた、、、」恋人である里奈の左手があった。

「俺も初めてだし、同じ気持ちだよ。上手くやるより、今日は楽しんでいこーよ。」

うん、と里奈は答えた。里奈の右手にはスマホがあったが、画面を消してポケットにしまっている。

 二人は大学の二年生で付き合って1年になる。互いに実家暮らしということもあり、周りや世間一般の同世代カップルと比べると恋愛の進展は遅いのは春樹自身もわかっていた。里奈によると、厳格な父親に門限を決められているらしく、夜の深い時間帯で二人で過ごすことはなかったのだ。今日は里奈の父親は職員旅行に行っているらしく、門限を気にする必要がないとのこと。

 春樹は初めて付き合った女性が里奈であり、未経験であった。里奈も父親の影響もあってか未経験というわけだ。

 道路手前まで歩くと、一旦立ち止まる。横断歩道がなく、車通りが多い。早く向かいのホテルまで行きたいのに。顔を右へ左へ何度も向けるが安全に渡れるタイミングがない。

「ねえねえ、あの車いったら渡れそうじゃない?」奥の車線の遠くにある車を指さして言った。

「まあ、ダッシュすればいけそうかな」

 春樹はタイミングを見計らって、「いくよっ!」と言って、走りやすいように、一旦里奈とつないでいた左手を離して走り出した。道路の半分を渡った時に―

「待って!!」と里奈が春樹の右手を掴んだ。春樹は右を向いて里奈をみて後悔した。荷物を持っていて走りにくい状況であったが、なぜ最初から男子たるもの、彼女と手をつないだまま引っ張ってあげなかったのかと。

 左を見ていない状況だが、まだ余裕をもって道路を渡れるはずだ。春樹は里奈に当たっている車のライトがとても強くなっている気がして左を向くと、感覚的に3,4メートル先に車があった。そして減速しているどころか、加速している!?と思った時、車がハンドルを道路の外に向かって切り出したが、春樹は間に合わないと直感した。その瞬間、里奈とつないだ左手を振り払った。

 ドンッ、という音と夜空の景色の記憶だけが残っていた。



 思ったよりも体が軽いなと思った。目を開けると、見慣れた実家の風景があった。しかし、見慣れない点としては黒い服を着た人が何人かいること。というか、これは、、、、

 春樹は後ろを振り返った。満面の笑みの少し古い自身の大きな写真、恐らく骨が入った四角い箱、、、。自身の手に目をやって気づいたが、体がやや透き通っており、足は膝から下は見えない。死んだ最後の時の服装で、服ごと透き通っている。

”俺、死んでもーた?”

 肩を落とし視線を下に落とした時、

「わ、私のせいなんですっ」里奈の声が聞こえ、顔を上げると喪服の人達の中に里奈が見えた。腰から上半身を直角に倒しているため顔が見えていないが泣いていることが分かる。両親は困っている様子で「顔をあげて。事故なんだからあなたのせいではないのよ」と母が言ったが、

「でも、でも、、」里奈は頭を上げないどころか、膝をつき泣き崩れてしまった。

「里奈、、、」春樹は里奈のところへ駆け寄り、触れようとしたがすり抜けてしまう。

「無駄だよ。」

 春樹は後ろを振り向いた。先ほどまで誰もいなかった春樹の遺影の前に黒いフード、ローブに包まれた者がいた。口元以外はほとんど見えない。口元は笑みを浮かべているように見える。

「誰?」

「君たちに分かりやすく理解させるなら死神、かな。春樹君」春樹の名前を知られていることに驚いてる場合じゃない。

「なあ、どうにかして生き返って泣いている里奈をどうにかできないのかよ」

「諦めな」死神は腕を組みながら言った後、春樹に近づいて続けて言った。

「あのね、死神に生き返らせることを願うっておかしいと思わないの?とりあえず落ち着いたら?」

 春樹は何も言うことが出来ず、下を向いていると、

「すみません、僕が連れていきますので。ご迷惑をおかけしました。」そう言って1人の男が泣き崩れる里奈と春樹の両親の間に入った。春樹はその声の方へ顔を向けた。

 武(たける)だ。大学で春樹や里奈もつるんでいるグループにいて、里奈と同じ高校の出身だ。話した人間を全部友達といえるような明るいやつ。そしてよくわからないが金持ち。大学に入って武が仲良くしてくれたおかげで、里奈とも知り合えた。武がいなかったら里奈とは付き合えなかっただろう。

 武は里奈を抱えて立ち上がらせて家を出て行った。


「とりあえず彼女は彼にまかせて、落ち着こうよ」場が静かになり死神は待ちくたびれたように言った。

「、、、あんたは何しに来たんだ?」

「おっ、やっと話が進められるよ。」

「ボクは魂を刈りとる仕事をしている。死ぬ直前にボクが魂を刈りとったりしてるんだ。んで―」

「なんで俺の命を刈ったんだよ!!」

「人の話は最後まで聞きなさーい。はーい、落ち着け―、リラーックス~。」

「ボクが刈る魂は、病気やケガで苦しんでいる人や寿命が残り少なくなっている人なんだ。すべての死をボクが管理できるわけじゃない、この世界で1秒ごとに何人死んでいってると思う?あくまでボクの手が届く範囲だけ。事故にあった君の体の骨はバッキバキに折れて、出血して、心停止。つまり君はボクが関わるかどうか関係なく死ぬ運命だったのさ。」

 確かに俺の死因は車での事故だった。死神が魂に干渉したとしても車まで操作することは難しいだろう。春樹は鼻から空気を吸い、口からゆっくりと吐き出した。この幽霊の体で呼吸ができているかわからないが、少し冷静になった気がした。

「すまない、少し落ち着いた。あんたに一つ質問が―」

「『なんで俺の命を刈りとったのか』ってことー?」

「話は最後まで聞けと言った本人がが遮るのかよ。」

「だって、今までのやつらもおんなじこと言うんだもん。それにさ、ボクは仕事がもたもたするの嫌なんだよね。って話が反れそうだから戻すね。」死神は両手を叩いて仕切りなおした。

「ボクが関われない死は魂がこの世に残ることなく消滅しちゃうんだよ。生きているうちに刈りとることで一時的に魂をこの世に留めてるってわけ。」そう言って、死神が左手を上げると、どこからともなく急に大鎌が現れた。

「これは人と魂を分ける鎌。君は若いからもっと長く生きたかっただろうと思ってさ。優しいボクが未練を軽くしてあげようと思ったのさ。そして明日には君の魂がこの世から消えてしまう。やり残したことはあるかい。」そして鎌は瞬時に消えた。

「ヤリたい。」春樹は即答した。

「、、、え?」

「ヤリたい。」

「、、何をやるの」

「何って、セッ―」「待って待って待って!!」言い切る前に死神が春樹を止めた。死神はこの手の話は苦手なようだ。

「ほ、他にないの?おいしいもの食べたいとか、海外や観光地に旅行行きたいとか。」

「童貞卒業したい。」

「話が通じないな、これ。」死神は呆れた。


いつの間にか春樹の実家に来た人たちはいなくなり、夜になっている。テーブルには椅子が三脚あるが春樹の席を残して両親が食事をしている。今日の食事は春樹が好きなデミグラスハンバーグ。テーブルには春樹の分がない。

「あらあらまだ春樹の分置いてなかったわね」食事の途中で母は席を立ち、キッチンからいつも食べる量より少なすぎる量のハンバーグとご飯を遺影の前に置いた。

「ねえ、食べたくない?」ハンバーグから春樹の方へ視線を移しながら死神は言った。

「死んでるのにどうやって」

「まあ見てなよ」死神は鎌を出した。先ほど出していた鎌よりだいぶ小さい。そしてハンバーグを切ったように見えたがハンバーグには何の見た目の変化が見られない。が、すでに冷めているはずのハンバーグから白い蒸気のようなものが出てきた。そしてやや透き通ったハンバーグが宙に浮かんでいる。

「これは、ハンバーグの感覚というかハンバーグの魂だな。」

「ハンバーグの魂?」春樹には訳が分からない

死神は今度は右手からハンドガンを瞬時に出した。ハンドガンを春樹に向けた。

「危ないものを向けんな」春樹は頭を守るように手をあげた。

「手を下ろして、ちゃんと見ててよ。」死神が構えた銃にハンバーグの魂の一部が吸い込まれた。残りの魂は消滅した。

「魂を銃弾にして対象者に魂を与えることができるんだ。いくよ、3.2-」バンッと、1を待たずして銃が発射された。春樹がびっくりする前に銃弾は春樹へ到達した。

「痛くない、というか旨い、、」春樹は思わず涙を浮かべた。触覚、嗅覚などほとんどの感覚機能を失ってしまったが、実際に食べた時の味覚の感覚を味わうことができたことに感動してしまったからだ。死神の方へ目をやると、ドヤ顔をしている。

「ほら、言った通りでしょ。どう?未練は軽くなったかい」

「そうだね。最後にさ、里奈を見てから消えたいな。」

「わかった。」



「え、、」魂の位置を把握できるらしい死神は里奈の魂を追った。そして春樹達がやってきたのは自分が行くはずだった、ホテルであった。悪い予感しかしない。死神は春樹と目を合わせようとしない。魂を追うことができる死神はおそらく、里奈以外の魂もその場所にあることを理解しているのだろう。相手はおそらく、、

「連れてきてくれてありがとな、いってくる」ここに来るまでは死神についていった春樹だが、自分で歩きだした。体に実体がないため、管理室に入り込んで部屋の空き状況は把握できる。あとはしらみつぶせばたどり着ける。それを見ていた死神が言った。

「あーもう、君をこの世に留めた責任としてボクが部屋まで連れて行くから!」

 死神は春樹に触れると同時に、二人は例の部屋の扉に飛んだ。

 春樹は一呼吸入れて扉を透過して部屋に入っていった。

 中には二人の裸体が行為に及んでいる。、一人はもちろん里奈であったが、もう一人は武であった。

「イキそうっ」「私もぉぉ」春樹は部屋に入ってから一度も喋ってない。

「ああぁイクっ、、あああ」里奈は腰を反らしながら喘いだ、そしていったん行為が終わった。

「里奈のおかげで、春樹を事故で殺せたんだよ。これで里奈はみんなから可哀そうと思われるポジションで、俺がそれを慰めてゆっくりと里奈の傷を癒していると思われるポジションの完成だ。お疲れ。」さすがに春樹は驚き、口がぽかんと開いた。

「ほんとだよぉ、私が武にギリギリまでスマホで連絡しておいて、武のお父さんは裏の人だからどうでもいい人を使って事故を起こしたんだよぉ」

 あの日、ギリギリまでスマホ触っていたのはその連絡で、引かれる直前に俺の腕を引いたのも確実に事故を起こすため?『緊張する』と言っていたのもホテルではなくて、俺を殺すこと・・?なんだこいつら。

「里奈とヤルのも久々だ。春樹と付き合ったから中々機会がなかったし。」

「なんかオタク童貞と遊び感覚で付き合ったら意外と束縛めんどいし、武と遊びに行くのも難しいから鬱陶しかったんだよね。」

「里奈にうろつくハエは俺が追っ払うから安心して。」

 死神は恐怖した。二人の会話ではなく、春樹の顔にだ。この状況でにっこりと笑っている。

「なあ、死神。」春樹が言った。

「な、に」死神は春樹に怖気づきながら答えた。

「消える前にさ、のどが渇いたからさ、あそこの水飲みたいんだ、あれやってよ。」死神は左手に鎌、右手に銃を出した。その瞬間、春樹は死神から無理やり鎌を取り上げた。えっ、死神はビックリしていった。

「ごめん、俺、気づいたんだよね。」そういうと死神に向かって鎌を振りかざした。死神はとっさに両手で庇うしぐさをしたが、鎌は寸前で止まり今度は銃を取り上げた。

「何するんだ!!」春樹は黙って銃を誰もいないところへ構えた。

「とりあえず、死神には感謝してる。そしてごめん、消えてくれ。」死神の体が銃に引っ張られている。

「まさか、ボクの魂を銃弾に・・!?」そして部屋にある花瓶に生けてある花に鎌をふるった。花からは魂が浮き出た。そして銃を魂がなくなった花に向かって打ち込んだ。

「ボクの魂を花に定着させたのか!?」そう言った死神の残りの魂は形をとどめられなくなり、霧のように散った。

「やっぱり、器の魂さえ追い出せば魂を移し替えることもできるんだな。さて・・」

 春樹はベッドに向かった。二人は春樹を認識できないので、気づくはずもない。

「俺はあの鎌と、銃を見た瞬間からこの方法は考えついたんだ。だけど他人の魂と引き換えにこの世に留まることはできないと諦めてたんだよ。でも、お前ならいいよね。」と、春樹は独り言を言った。

 不自然にならないように行為が終わるまで待ってやったんだ。さよなら。


 春樹は武に向かって鎌を振り下ろした。武の体は止まり、魂が浮かびだした。春樹が魂の状態で意識を戻したのは死んでから数日後であると考えられる。なぜなら目覚めたときに春樹の体が実家で骨になっていたからだ。

「お前の魂は数日後には消えるだろう、そこで指をくわえて見てろ。」武に聞こえてるかどうかわからない。そういって武の体に向かって銃口を向けた。銃弾は春樹自身の魂。バンッと音がなった。


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」

「ごめん、もっかい言って。」

「そろそろ二回戦しよ♪」

「うん、ちょっと雰囲気変えてやろうか。」

初めて投稿します。というか書くの初めてでした。昔この話の構想をしてた時があり、今回機会があって、数日かけて書きました。粗削りだったと思います。妄想が過ぎてしまい、周りに伝わるか心配です。どこがどう伝わらなかったのか指摘してもらっても構いません。

書いてみて思ったのは、自分のボキャブラリーのなさ。こう伝えたいのに言葉が出てこない。という感じ。とりあえず気軽に投稿させてもらいます。

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