59 守り竜の呪い
ララたちは、その後も時々竜たちの様子を見に来ていた。森守りの竜は、体の傷も癒え、洞窟から出ることもできるようになる。
「ララ、竜は、この森を守る。森は、マナを生み竜を支えるのだ。そうやって長い年月を過ごしていくんだ」
「寂しいけど、子竜はここにいるべきなのね」
「そうだ。これから森守りから色々教わって代替わりしていくことになる」
オスト街で奇病が発生した。体に青い鱗が生えてきた者が5人現れた。日に日に鱗は増えていく。冒険者3名と商人2名だった。服の下に隠せるうちは本人たちは、騒がなかった。その中の魔法士が魔法が使えなくなる。さらに鱗は広がり、皮膚の色は徐々に緑色に変わっていった。冒険者ギルドから、街中にいた商人が、治療院に出向いて発覚した。奇病発生の届けと共に隔離治療となった。
奇病の患者は、回復魔法をかけられようがポーションを飲もうが回復の兆しがない。魔力の消失以外は、皮膚症状だけで命にはかかわらない。しかし皮膚症状は徐々に進行していく。顔に鱗が生えてきた。魔付きの者かと、教会に助けを求めたら何かの呪いでないかと言われた。
商人は大店の跡取りだったので、呪いの解除を願った。オスオスの街の助祭ではできなかった。オスオスの助祭から大神殿に連絡が届いたころ、王都の商人と貴族からも同じような依頼が届いた。
護衛騎士隊長のモーリアンは捕らえたダンにも鱗が生えてきたと報告を受けた。竜の闇売買にかかわった魔法士の死体に鱗があった記録から、今回の守り竜の事件と関係がある者が呪いを受けたのではないかと領主マクシムに報告があがる。
マクシムは国の調査機関に報告した。速やかに奇病発生者は、王都の端の診療所に運ばれた。そこは王都で疫病が発生したときなどの特殊隔離治療院である。そのため治療士以外に魔法にたけた者や教会職員なども働いている。
国の捜査が始まった。闇ルートによる魔物や薬・奴隷等の売買に王都の大店がかかわっていることが分かった。今回は王都の公爵に所望されデノン男爵が、貢物として子竜を探していた。
大店のマンド商会の長男は、父の商売のやり方が気に入らなかった。律儀にコツコツと商いをして一代で大店にしたマンドは、派手はこのまず従業員を大切にする店主だった。まだ支店の数は少ないが
大きな街には必ず支店を出してきた。商売は上手くいっていた。
マンドは、女で失敗をした。真面目なマンドは、手慣れた美人にコロっと騙されて結婚してしまった。マンドは、美人でつつましやかなブリジットにメロメロになり 欲しいものはなんでも与えた。宝石でもドレスでもそして男の子が生まれた頃には大店の奥様というより我儘なお嬢様になっていった。
当然ブリジットは子育てなどせず乳母に任せていた。マンドは子供をかわいがったが、仕事で家を留守にすることも多い。子供は、ブリジットの影響を大きく受けていた。
父のような商売は自分には向いていない。もっと大きな商いをしたいと思っているところに付け込まれた。気が付いたら闇売買にかかわるようになっていた。もちろん実入りも桁違いであった。金は、母に言えばいくらでも手に入るので仕事は順調に成果を上げてきた。今回の竜は、公爵の嫡男が欲しがり上手くいけば公爵家ご用達になれると言われ欲を出した。
上手くいくはずだった。竜の運び屋が欲を出さずにいたら。竜が届かないとデノン男爵から矢の催促が来た。デノン男爵は公爵嫡男からまだかと催促されていた。竜の取引は国内で禁止されている。まして守り竜を攫うなど国難に値することなのだ。金貨は受け取ってしまい使い込んでしまった。子竜の運び屋の行方がわからない。父のマンドに相談もできない。ブリジアンは、逃げ出す準備をしていた。
ブリジアンは、腹回りがかゆくなり緑色のあざが広まり皮膚が硬くなった。緑の鱗が生えてきた。驚いて母に相談した。魔物の子供など生んだことはないと叫ばれた。服で隠せるうちは良かったが、腕に、首に、ついには顔にまで鱗が生えてきた。魔物の呪いではないかと教会に相談することになった。
そして王都の診療所から隔離施設に送られてしまった。その後、治療というより尋問が始まった。闇売買の商売のことも知られていた。公爵家の嫡男とデノン男爵もこの施設にいた。
捜査結果は1か月後、領主マクシムに届いた。公爵家嫡男は、ただ単に珍しい竜が欲しいとデノン男爵に頼んだ。デノン男爵は後々の事を考えて、出来る事ならかなえたいと思い、
前々から裏で商売をしているブリジアンに声を掛けた。ブリジアンは、闇ルートから東の森に
竜の卵があることを知った。仲間を募り 子竜を攫うことを計画実行したのだった。
オスト領主は、年に一度森奥に祈願に行く。森の安寧と森の恵みに感謝をささげる。祭壇には、供物を備える。祈願が終わると魔力をたっぷり含んだ緑の鱗が1枚置いてある。代々の領主は、この鱗からオスト特有の疫病の薬を作っている。この薬のおかげで、病が領全体に広がることがない。オストは、森に生かされ、オストが森を守ることが、長い年月の盟約だった。
それなのに、森の中は、木々は倒され、焼け野原になっていた。火竜の死体や踏みつぶされた人の
死体が散らばっていた。守り竜は、怪我をしている様子もうかがえた。子竜を呼ぶ鳴き声に人は、竜に近づくことができなかった。死骸を埋め、森に聖水を撒き、倒れた木々を整え、供物をささげた。
守り竜の鳴き声がしなくなった。森のざわめきが収まり焼かれた荒れ地が復活してきている。森の見回り冒険者から女の子が森奥にいると報告を受けていた。森奥に行ける者は守り竜が、認めた者。手を出さず見守るだけにするよう指令を出した。さらに、森奥に結界が張られていた。
マクシムは、子竜が戻ってきたことを確信した。今は、子竜の成長と無事な代替えを願うだけだった。守り竜と西の大森林の事を後世に伝えなければならない。マクシムは自分の代で起きた事件の詳細を記録に残した。
今回の子竜誘拐に関わった者は、全身に鱗が生え魔力を亡くした。もう人ではなかった。これは、呪いでなく神罰と女神からお言葉が下りた。公爵嫡男は、除籍され生まれたことさえなかったことにされた。父親は国の仕事を辞し弟に代替えして領地に戻った。デノン男爵は取り潰し。
マンド商会は店をたたんだ。調べてみれば信用貸しの借金が、あちこちから湧いて出てきた。妻の借りた金だった。息子と、妻の愛人に渡っていた。家財から別宅、貴金属等の持ち物すべてを売り払って返金に回した。ブリジットは、そんな夫の苦労も知らずさっさと離婚して出ていった。ブリジッドを迎えてくれる者が、いないことを知らなかった。
マンドは最後に息子に会いに行き、厳しく育てなかったことを謝った。息子がいずれ行くであろう鉱山に向かった。少しでも息子の近くに居ようと、鉱山近くで小さな店を起した。
皮膚が鱗化した人間は特別な鉱山に向かった。魔力を失っても体だけは丈夫だった。どんなに重労働をしても次の日にはピンピンしていた。短時間の睡眠で済む。魔力溜まりの危険な鉱山で、魔石採掘に向かう。普通の人間なら半年ももたない。死が約束されている鉱山。
魔石鉱山に向かった者たちは、竜の呪いが解けることが無い。病気や怪我で死ぬこともなく、自死さえもできない体。延々と働き続ける。いつの日か寿命が尽きる日を待ちわびながら、絶望と共に生きていくのだ。
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