56 竜の守りし森
王都からの長い旅の馬車は、アイザック領に入る。遠くの森を眺めながらフォレストアインジャンに
着いた。同乗者にお礼を言って 馬車を降りた。怒鳴りこんできた男は、降りてこなかった。
足早に家に向かう。家には明かりがついていた。ほっこりとした気持ちになった。
「ただいま」
妖精たちが迎えてくれた。あちこちから 住人が集まった。家に帰ってきたんだと実感した。ジュモーとモッジがご馳走を作ってくれてあった。ゼリーは、ポケットから飛び出した。セバスチャンに飛びついた。こんなに仲良しだったか?
「ララあの子、今寝てる。話はおいおいだね。思ったより弱ってるよ」
メメが 苦い顔をしていた。ポポが、すり寄ってきた。
「お帰り、お疲れ様!無事にお祓いできたみたいだね。稲光が落ちた。きっと怒ってると思った」
それから 夕飯を食べながら、青の森の事、ワインダー男爵の話、黒のポーション、盗賊の事、大神殿の事を皆に話した。途中までは、水鏡でも話したし、ポポが戻ってきたので落ち着いて話を聞いてくれていた。
「ララ、もうお休み。この子のことはメメが見てるから」
女神がまとめ役をしてくれ、それぞれの寝台に戻っていった。
翌朝、留守番組にベーコンと野菜とゆで卵入りのマヨネーズをたっぷり挟んだサンドイッチとスープをたくさん作った。王都土産も買ってくるのを忘れていたから申し訳なかった。
「ララちゃんお帰り。お里の方は寒かったでしょ。ゆっくりできたかしら」
リゼルさんに聞かれて焦ってしまった。そんな設定で出かけていたのを全然忘れていた。
「ありがとうございました。往復に時間がかかったので、向こうでは少ししか時間なかったけど大丈夫でした」
店の開店と同時にお客様が来て話はうやむやで終わった。セバスチャンから不在中のお話を聞き背負いカバンの整理をしてもらった。色々詰めてもらったおかげで、助かりました。
いつも通り午前中に製薬して、午後は納品に冒険者ギルドに出かけることにした。
トカゲ君は、朝方回復魔法を追加した。メメが、少しづつポーションを飲ませている。まだ話はできそうになかった。やっと弱弱しい息づかいが落ち着いてきた。黒っぽいと思った皮膚は、深緑の色になり、ちいさな鱗がわかるようになってきた。今は、ポポもコロも参加して、介護チームが結成されている。
「こんにちは サマンサさん お薬の納品に来ました」
声を掛けるとサマンサさんが満面の笑みで
「待っていたのよ。やっぱりララちゃんが、来ないと寂しいの。ピーターソンが、お薬が足りないってうるさいのよ。いつもの高級ポージョン8本でいいかしら」
「お願いします。お休みしていたので、多めに作ってきました」
「そうそう ロッジおじいにも声かけて。それから 前ララが、助けたマリリン、申し訳ないって謝っていたわ。悪い子じゃないけど周りが見えない子で、みんなに説教されてやっとわかったみたい」
「気にしてません。ところで最近 何か変わったことありませんか」
しばらく離れていたので情報収集しないと。
「森は落ち着いているわ。大きな騒動は神の稲光と教会の大祈禱かな・・・ あった。東の森が荒れていて 冒険者が流れ込んできているわ」
「東の森が荒れている?」
「あそこは、森を守るドラゴンがいるの。守り竜というやつね。だから基本大型の魔獣がいてもドラゴンの縄張りだから数はそう増えず穏やかな森なの。最近急に大型のワインバーンやサラマンダーが出ているらしい。領主隊と冒険者で討伐隊を組んだらしいわ。近場は、討伐したみたい。怪我や死者も多かったの。まだ森奥にいるらしいので高ランク冒険者以外は、立ち入り禁止になっているんですって」
「こっちに来ないといいけど」
「ララちゃん こっちには来ないわよ。東の森もここのと同じくらい大森林だから、だた心配は、街に向かわないといいけど、こればかしは分からないからね」
サマンサさんは、話してくれた。
「ロッジおじん お久しぶり」
「おお、お帰り。元気そうだな。ララが居なくても妖精が頑張っていたぞ。気まぐれな妖精が、ララのとこでは働き者だ。不思議なもんだな まあ疲れただろう無理するな」
ロッジおじんの話を聞いて、ララはそのまま帰宅した。フィアおばあさまにも連絡を入れ無事に帰ってきたことを伝えた。
平穏な生活が続く。トカゲ君は、少しずつ元気になった。お話が出来るようになった。まだ幼いので 言葉がつたない。ゆっくり聞いていた。東の森から攫われたことが分かった。
「木竜、気が付いたら袋の中にいた。叩かれた。お腹すいた。泣いた。叩かれた」
泣き出した。メメとポポが、話の内容を補ってくれた。卵からかえったばかりのとこをあの男に攫われたらしい。母竜は寝ていたらしい。薬か毒で、動けなくなっていたのかもしれない。母竜が、子供を離すはずがない。
「卵がかえったということは、代替わりの赤ちゃんかもしれない。そうなると高齢の竜だな」
ララは、冒険者ギルドで聞いた東の森の話をした。
「決まりだな。早く森に返さないと森が荒れるな。木竜が居るだけで森は、活性化して豊かになる。竜の縄張りは、竜の保護下にあるから余計な大型魔物は近づかない。小物ははたから竜は相手にしない。竜は基本マナから力を得ているから」
赤ちゃんトカゲは、木竜だとわかり、もう少し体力ついたら東の森に送ることにした。木竜は大勢の精霊や妖精に可愛がられ、時々森に連れていってもらい森での暮らしに慣れさせていった。
そのころ東の森では、体の弱った守り竜が、子供の行方を捜していた。本来なら簡単にわかる気配も今は、何も感じられない。木竜はそろそろ代替えだと卵を産み、長い時間温めて子竜は、自力で卵を割って出てきた。そこに、火竜を従えた人間がやってきた。森を焼き払おうとしたため巣を離れてしまった。
その隙に子竜を攫われてしまった。火竜との戦いで勝利はした。しかし 自らも傷ついた。あと5年もすれば代替えなのに。子竜が居なければこの竜の森は死んでしまう。大型魔物が闊歩するようになり 守っていた動物たちは、少しづつ森を離れていった。仕方がないことだ。弱肉強食の世界なのだ。われの叡智をまだ小竜に渡していない。どうにもできない自分が情けなくなる。わが身はまだ守れるが これがいつまで持つかは分からない。
「グワーーン グワーン グオーン グオーン」
呼び声をあげた。
ララの腕の中で寝ていた小竜が急に立ち上がり
「キューン キューン」
泣き出した。
「メメ、ポポわかる?どうしたの?」
「親竜が、呼んでいるんだろう。そろそろ森に行こう」
「人に慣れさせてもいけない。確か親から子に伝える叡智があるはずだ。それが無いとこの子は、守り竜になれずはぐれ竜になって討伐対象になってしまう」
ポポとメメの焦った声で 東の森に行くことが決まった。
東の森を持つオスト領主のマクシムは、領主団長のモーリアンから報告を受けていた。
「ワインバーン1体とサラマンダー1体の討伐が終わりました。死者20名 負傷者50名を超えます」
「よくやった よく2体討伐してくれた」
「まだ若い個体でしたので助かりました」
「ほかに情報は」
「先駆けによると森奥で火竜が死んでおり、竜の巣に卵がかえった抜け殻があったそうです」
「代替わりか…子竜は見つかったか」
「いませんでした。守り竜の呼ぶ声が頻繁に聞かれます。森にいないのでは」
「それは困る。守り竜が、居なくなれば森が荒れる。なぜ ドラゴンフォレストと言われているか知っているか?
東の森は竜の守りし森と言って、木竜が守っているから成り立っているのだ。守り竜が、いなくなったら森は、荒れ大型の魔獣が増える。いずれは人のいる街に下りてくる。
竜の守りで我々は、守られ。我々が竜を守ることで、オスト領ひいてはフランク国が守られている。
森の恩恵は、竜からの恩恵なのだ。長い時の流れで、竜の恩恵を忘れていたのかもしれない」
「情報を集め 子竜を森に早く返さないといけない。頼んだぞモーリアン」
「お心のままに」
モーリアンは、オスト領を守る騎士団5000人のトップである。今回の討伐で自ら魔法と剣で、先陣を走った。それほどに今回の討伐は苦戦を強いるものだと考えていた。多くの負傷者を出した。今回は何とか討伐できたが、これを何度も繰り返すほどの力はない。
森の守り竜に戻っていただかないと、身が引き締まる思いだった。森奥の焼け跡から火竜との戦いがあったこと、子竜がいないことから竜攫いが目的でないか。攫われてから時間が経っているので、情報を集めた。そこに、竜を盗まれたと騒いだ者が、いたことが分かった。
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