5 母として
母の思い
私はソフィー、ララの母。ララと出会ったのは、私がまだ森で静かに暮らしている頃だった。森が騒がしいので庭先に出てみた。玄関に高そうな布に包まれた赤子が置いてあった。
子の側には白い大きなオオカミが、子を守るように座っていた。白いオオカミは、確か森の守り神だったはず。そっと赤子を抱き上げる。森の守り神は安心したように立ち上がり去っていった。
私の手を握りながらすやすやと寝るこの子を守ることが、私の仕事になった。師匠の元を離れてから50年、森に一人で暮らしていた。時折作った薬を街に売りに行く。森の魔女と言われていた。人恋しくなった私のもとに私と同じ栗色の髪、栗色の目、私の子と言って可笑しくない子が現れた。この子が愛しいと思えた。
それからが大変だった。だって、私子育てなんてしたことない。おむつ、ミルク、服、ベッド、夜泣きに・・・寝る暇ない。私を目で追い,傍にいなければ泣き、抱き上げればにぱぁと笑う。
「ウンマ、ママ」
ララは私に呼びかけてくれる。一人きりの生活に、娘という花が私の胸に咲いた。しかし、娘は、すぐに熱を出す。床に就くことが多くなった。私の薬でも対処療法にしかならない。森での生活だけでは彼女を守れないことを感じた。
彼女は魔力の器が小さく日々少しずつ魔力が漏れてしまう。治療師に見てもらったが、生まれつきで長くは生きれないと言われた。治療魔法をかけると少しは熱が下がる。森から街にでた。治療院の近くに小さな店を開いた。娘を見守りながら生活することにした。私は薬屋を本業にしながら
ララ5歳のとき、高熱が何日もつづいた。目覚めない。私の手から娘がいなくなりそうで傍を離れられなかった。消え入りそうな娘の手を握る。
「ママありがとう。大好き」
ララの声が聞こえた。私の手に小さな手が添えられていた。娘が虹の橋を渡ったと感じた。旅立った娘は光の世界に笑顔で駆け上がっていった。走ることも、外の風を感じることもできなかったのに、笑顔がまぶしい。感謝するのは私の方だった。
小さな手が動いた。びっくりして、握りしめていた手を開こうとしたら、私の手を握った。不思議に旅立った娘が戻ってきたように思えた。思わずわたしはララを抱きしめていた。 私だけを見つめるララの目に変わりはない。私がララを手放せない。
翌日ララは目を覚ました。熱は嘘のように下がった。ララは時間をかけて少しずつ元気になっていった。治療師は驚いた。女神の奇跡だといった。ララの魔力の器の漏れがなくなった。器は小さいが少しずつ育っている。治療師は不思議そうに帰っていった。
発熱することも減り、少しずつ食事もとれるようになった。それからは早かった。寝台から起き上がる時間が増える。歩き回れるようになる。私のそばから離れずいつもくっついていた。生きていることを楽しんでいる。
本を読み聞かせたら言葉を覚えた。字を覚えた。そのうちお料理したり、洗濯したり、掃除を覚えた。なんでも手をだす、やりたがりのララが私の側にいる。わたしは毎日が愛おしくなった。
誤字脱字報告ありがとうございます